駆け込み乗車はおやめください。

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駆け込み乗車はおやめください。

『危険ですので、駆け込み乗車はおやめください』  駅のホームのアナウンスに思わずギクリとしてしまう。  もう電車を降りて、後は駅から徒歩で家に向かうだけ。  それなのに、俺がこのアナウンスに反応してしまうのは、駆け込み乗車の常習犯だからだろう。  でも、俺だって好きで駆け込む乗車をしているわけではない。  朝が弱いだけなのだ。  会社に遅刻しないことと、駆け込み乗車をしないというマナーをを守ることを天秤にかけたら、会社に遅刻しないことが勝つだろう。  家に帰り、晩ご飯を食べながらスマホで今日のニュースをざっとチェックする。  ふと、目に飛び込んできたニュースの文字に、俺は息を飲んだ。  いつでもギリギリになるという癖は幼い頃から変わっていない。  三つ子の魂百までも、と言うように、変われないのだ。  だが、今日の電車には乗り遅れるわけにはいかない。  しかし、ここ数日はあまりにも非日常のような出来事が多くてまともに睡眠時間が取れなかった。  だから目を覚まして時計を見た瞬間に、一気に覚醒した。  大慌てで貴重品だけを持って、駅へ急ぐ。    間に合わないかもしれない。  そうなったら、俺はどうなるんだ?  でも、こういう時ぐらいは少しは待ってくれるだろう。  そんな二つの考えが頭で回りながらも、俺はとにかく急いだ。  電光掲示板に、一つだけ表示された次の列車の文字。  電車がホームに滑り込んでくる音。  急いで階段をかけおりていると聞こえてくるのは、『危険ですので駆け込み乗車はおやめください』のアナウンス。  家からずっと走ってきたのと睡眠不足で、とうとう息が切れて立ち止まってしまった。  ふらふらしながらも、階段を降りる。  今日は、最後くらいは待ってくれるだろう。  そんな甘い考えを打ち砕くようなアナウンスが流れる。 『最終電車、シャトル打ち上げ場前駅行き、扉が閉まります』  聞き慣れた音と共に、扉が閉まり、電車が動き出す。 「まってくれ!」  そう叫んでも、電車は止まるはずもない。  これが最後のシャトル打ち上げ駅前行きだった。  タクシーはもう捕まらないだろう。  なにせみんな、自分のことで精一杯だ。  俺は誰もいなくなったホームで立ちつくす。  今日は、地球に巨大隕石が落ちる日だ。
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