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婚活パーティー会場はかなり豪華だった。豪華だがカジュアルだった。ビジネスモードではないが礼節を欠いてはならない……というのはなんと難しいのだろう。大学卒業時に袴を履きはぐれ、ブカブカのワンピースを着ていく羽目になった私は、こんな時でも浮いていた。
(皆さん、普段着なんですね。それが普段着なんですね!)
なんというのだろう、普通のティシャツやジーンズだと思うのだが、どこかしらお金の匂いや、上流階級の満たされた洗練さが感じられる。
そんなカジュアル……上流階級のカジュアルティストが、しかもアットホームな空気まで漂わせている。
にもかかわらず、私は限りなく黒に近いリクルートスーツに白いシンプルなシャツを着込み、ストッキングにウォーキングパンプスだった。
そして、ピンク色の超かわいいゲージを持ち、テーブルの上に置く。
「にゃー」
「にゃああ」
「え、ええ。名前はキャロラインで~す」
てへへっとお愛想笑いだ。
「2歳で~す」
職場で鍛えたスマイル。
でも、ややひきつる。
そう。
ここは婚活パーティー。
ただし…猫。
しかも私、月季花の猫ではない。
職場上司の猫だ。
彼女は今、急遽決まった新規事業計画に忙しい。
私は大親友であり、上司でもある店長の、猫、血統書つきのキャロラインと婚活パーティーに参加している。
一方。
一緒に来た息子は目を輝かせて猫を見ている。
「猫とは」
私の息子、カイは猫が好きだ。
なので、いつになく饒舌だった。
「ネコ目(食肉目)-ネコ亜目-ネコ科-ネコ亜科-ネコ属に分類される小型哺乳類通称」
5歳児なのに、ハキハキと喋り続ける。
「瞳孔ぱっくり、超かわゆす」
私はそんな息子を止められることもできず、暴走しないことを願うのみだ。
「…」
5歳のカイは保育園に通っているが、同年代とコミュニケーションができない。
生まれつき、頭がとっても発達していて、その代償なのか、運動神経が逆方向に発達している。
そんな息子の母である私、月季花は、バツゼロ子持ち。
助けてくれたのは、学生時代のバイト先だった。
店長の一条華絵には一生感謝する。
今回の猫婚活、華絵はキャロラインを見合いさせたがっていた。
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