逃げている人だって走っている

2/23
202人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
婚活パーティー会場はかなり豪華だった。豪華だがカジュアルだった。ビジネスモードではないが礼節を欠いてはならない……というのはなんと難しいのだろう。大学卒業時に袴を履きはぐれ、ブカブカのワンピースを着ていく羽目になった私は、こんな時でも浮いていた。 (皆さん、普段着なんですね。それが普段着なんですね!) なんというのだろう、普通のティシャツやジーンズだと思うのだが、どこかしらお金の匂いや、上流階級の満たされた洗練さが感じられる。 そんなカジュアル……上流階級のカジュアルティストが、しかもアットホームな空気まで漂わせている。 にもかかわらず、私は限りなく黒に近いリクルートスーツに白いシンプルなシャツを着込み、ストッキングにウォーキングパンプスだった。 そして、ピンク色の超かわいいゲージを持ち、テーブルの上に置く。 「にゃー」 「にゃああ」 「え、ええ。名前はキャロラインで~す」 てへへっとお愛想笑いだ。 「2歳で~す」 職場で鍛えたスマイル。 でも、ややひきつる。 そう。 ここは婚活パーティー。 ただし…猫。 しかも私、月季花(つきか)の猫ではない。 職場上司の猫だ。 彼女は今、急遽決まった新規事業計画に忙しい。 私は大親友であり、上司でもある店長の、猫、血統書つきのキャロラインと婚活パーティーに参加している。 一方。 一緒に来た息子は目を輝かせて猫を見ている。 「猫とは」 私の息子、カイは猫が好きだ。 なので、いつになく饒舌だった。 「ネコ目(食肉目)-ネコ亜目-ネコ科-ネコ亜科-ネコ属に分類される小型哺乳類通称」 5歳児なのに、ハキハキと喋り続ける。 「瞳孔ぱっくり、超かわゆす」 私はそんな息子を止められることもできず、暴走しないことを願うのみだ。 「…」 5歳のカイは保育園に通っているが、同年代とコミュニケーションができない。 生まれつき、頭がとっても発達していて、その代償なのか、運動神経が逆方向に発達している。 そんな息子の母である私、月季花は、バツゼロ子持ち。 助けてくれたのは、学生時代のバイト先だった。 店長の一条(いちじょう)華絵(はなえ)には一生感謝する。 今回の猫婚活、華絵はキャロラインを見合いさせたがっていた。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!