番外編 ぱんつのごむ

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朝まどろみから緩やかに目を開けると 「…」 カイのむこう、桃季さんが肘枕して寝ころんでいた。 彼は目を開けている。 瞳に愛しさが含まれていて、眦が甘い。色気がある…オスの眼差しをしている。 2つ年上だけど、たまらなく若い部分と大人の達観が混在している。 「なにしてるの…?」 私の声は少し猫みたいだった。 「…ん」 桃季さんは滴るように笑む。 このひとは、アホな時と艶めいた時に落差が激しい。 「月季花を見てた」 「…え」 桃季さんはゆっくりと目を細める。 「鳴かせたいて思って…」 長く美しい指は繊細なのに合理的な動きをする。 中学卒業まで靴ひもも結べなかったくせに私の髪を優しく梳いた。 「…どんな声で鳴くのかなあ…撫でたい…よしよし」 髪を撫でていた指が後頭部を握りしめるように支える。 カイを挟んだまま、唇が重なった。 「…んっぅ…」 声が漏れてくぐもる。 慌てて飲み込み、逃げようとしても手は荒々しく私の髪を掻き乱し そのくせ、唇は圧迫するように見事にふさぐ。 そして舌はじらすように、とろけるチョコレートを舐めるように緩慢だ。 上あごをたどられ、舌を絡めながら、私を試すようにわざと外す。 泣きじゃくる子供みたいにひたむきになる時もあればいたずら気味に跳ねたりする。 (キスって…) ああ、キスってこんななの?
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