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「おわっ! びっくりした。急に止まんなよ」  足元ばかり見つめて歩いていた政宗は、危く楓にぶつかりそうになった。 「政宗」  ゆっくりと、楓が振り向く。 「な、なんだよ?」 「訊きたいことが……あるの」 「訊きたい……こと?」  少し身を引き、政宗が訝しそうに楓を見つめた。 「あのさ……」  一旦目を伏せ、視線を左右に彷徨わせる。  ポシェットの肩紐をギュッと掴むと、楓は思い切ったように顔を上げ、大きな瞳で政宗を見つめた。 「政宗って今、彼女とか、いるの?」 「……はぁ?」  突然飛び出した予期せぬ質問に、政宗は両眼を見開き声を裏返らせた。 「お前、なに言ってんの?」 「だって……」 「んなもん、いるように見えるか?」 「ううん」  今にも泣き出しそうな顔をして、楓が左右に首を振る。 「そんなんいたら、お前らなんかと(つる)んでねぇよ」 「ひどっ……」  ほら行くぞ、と政宗が楓の脇をすり抜ける。その腕を「待って」と楓が強く掴んだ。  驚いて振り返った政宗が、「へっ?」と気の抜けた声を上げた。 「じゃあ、美乃里は?」 「美乃里?」 「どう思ってんの? 美乃里のこと」  手のひらに政宗の動揺が伝わってくる。楓は汗ばむ指に力を込めた。 「お前、酔っ払ってんのか?」  しょうがねぇなぁ、と政宗は笑って、楓の指をやんわり解いた。 「駅まで送ろうか?」 「誤魔化さないで!」 「ったく……」  これだから酔っ払いは、と溜息ををつき、政宗は再び歩き出した。 「政宗!」  その背に楓が呼びかける。 「美乃里は……」  遠ざかる後ろ姿に、楓は涙の滲む声で叫んだ。 「美乃里、不倫してるよ!」
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