74人が本棚に入れています
本棚に追加
/203ページ
プロローグ
待ち合わせの公園は、あの日と変わらず穏やかな光に包まれていた。
ぐるりと囲む桜の木。
木陰に置かれたコンクリートの赤いベンチ。
四つ並んだブランコ。
青い階段の付いた黄色い滑り台。
決して広いとは言えない公園内をゆっくり歩きながら、美乃里は大きく深呼吸をした。
「美乃里」
ジャングルジムに手を掛けたところで、背後から、澄んだ柔らかい声が流れてきた。
「政宗」
「遅くなってごめん。なる早で来たんだけど」
黒いボストンバッグを肩に掛け直すと、政宗は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ううん。私も今来たばかりだから」
最近塗り替えたばかりなのか、真新しいエメラルドグリーンのジャングルジムに指を這わせ、美乃里はにっこり笑った。
「楓は? まだ?」
政宗がぐるりと辺りを見回す。
「まだみたい。車で来るって言ってたけど……」
美乃里が通りに視線を走らせた時、公園の入り口に黒い軽自動車が停まった。
「あれか?」
「そうみたい」
二人顔を見合わせ目配せすると、そちらへゆっくり歩き出した。
「お待たせ」
運転席から勢いよく降りてきた予想通りの人物に、二人は揃って破顔した。
「楓!」
堪らず駆け寄ると、美乃里は楓に抱きついた。
「ちょっ……! 美乃里!」
困ったように、楓が眉間に皺を作る。縋るように流した視線の先で、「久しぶり」と政宗が笑った。
最初のコメントを投稿しよう!