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誰もいない部屋は冷え切っていた。
部屋の明かりをつけると、沙良はすぐに暖房とテレビをつける。
高校を卒業して、7年が経った。
一人暮らしも、7年目を迎えた。
帰宅後すぐにテレビをつけるのは、7年間で身についた癖のようなものだった。
高校卒業まで家族四人で暮らしていた沙良にとって、音のない生活は寂しかった。
7年の間で姉は結婚し、姪が生まれ
沙良は社会人になっていた。
姪の零菜には年に数回、長期休暇が取れる時期にしか会えないが、
彼女は沙良によく懐いていた。
年に数回の癒しの時間が、
沙良にとっては楽しみの一つだった。
ーーーうさぎのぬいぐるみ、喜んでくれるかな。
沙良はソファに腰掛け、桃色の紙袋を隣に置く。
ーーー零菜は、うさぎとどんな冒険をするだろうか。
「まーちゃん」と踊った、あの女の子を思い出す。
思えば、幼い沙良にも冒険があった気がする。
あれはいつだったか。
ーーーそうだ、あれは、白いーーーーー
ーーー「ねえ、あなた誰?」
ーーー「綺麗な色」
「ユラに似てる‥‥。」
それは無意識に溢れた言葉だった。
ユラーーー
はっと、現実に戻る。
「ユラ」
それは、いつどこで出逢った、誰だったか。
ただ、あの白いぬいぐるみのうさぎは
「ユラ」に似ている。
一瞬取り戻したいつかの記憶が、
沙良にそう思わせた。
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