夢にした昨日

4/14
前へ
/14ページ
次へ
誰もいない部屋は冷え切っていた。 部屋の明かりをつけると、沙良はすぐに暖房とテレビをつける。 高校を卒業して、7年が経った。 一人暮らしも、7年目を迎えた。 帰宅後すぐにテレビをつけるのは、7年間で身についた癖のようなものだった。 高校卒業まで家族四人で暮らしていた沙良にとって、音のない生活は寂しかった。 7年の間で姉は結婚し、姪が生まれ 沙良は社会人になっていた。 姪の零菜には年に数回、長期休暇が取れる時期にしか会えないが、 彼女は沙良によく懐いていた。 年に数回の癒しの時間が、 沙良にとっては楽しみの一つだった。 ーーーうさぎのぬいぐるみ、喜んでくれるかな。 沙良はソファに腰掛け、桃色の紙袋を隣に置く。 ーーー零菜は、うさぎとどんな冒険をするだろうか。 「まーちゃん」と踊った、あの女の子を思い出す。 思えば、幼い沙良にも冒険があった気がする。 あれはいつだったか。 ーーーそうだ、あれは、白いーーーーー ーーー「ねえ、あなた誰?」 ーーー「綺麗な色」 「ユラに似てる‥‥。」 それは無意識に溢れた言葉だった。 ユラーーー はっと、現実に戻る。 「ユラ」 それは、いつどこで出逢った、誰だったか。 ただ、あの白いぬいぐるみのうさぎは 「ユラ」に似ている。 一瞬取り戻したいつかの記憶が、 沙良にそう思わせた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加