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「ユラ?」
名前を呼んでみたが、
ユラどころか、誰にも届かないような気がした。
生き物の気配すらない世界だった。
一面に広がる綿毛は、どこまでもどこまでも続いているように見える。
建物もなければ、木だって生えていない。
空がやけに高く見えた。
ーーー天国があったら、こんな場所なんだろうか。
沙良はどうしてか安心していた。
それは長い旅から久しぶりに家に帰ってきたような、不思議な安心感だった。
コンビニもない。スーパーもない。
家もなければ、友達もいない。
それでも生きることを不安に思うことさえなかった。
「ずっと、ここに居たいかも。」
人間関係も、仕事も関係ない。
この空間は時が止まっているようだった。
大きく息を吸って、沙良は目を閉じた。
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