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キーボードを叩く単調な音が人気が少なくなったオフィスに響いている。画面を見つめたまま指先でマウスをクリックした筧 賢太郎は眼鏡のブリッジを軽く押さえ大きく息を吐いた。
「筧、そろそろ時間だぞ。キリついたか?」
「ああ。なんとか」
声を掛けて来た同僚の三井に返事をし、大きく伸びをした。デスクの上のパソコンの電源を落とし、書類を鞄に入れる。
「店、“大和屋”だったか?」
「ああ。こっから歩いて十分ってとこか。ギリ間に合うな」
「社長も顔出すらしいし、急ごうぜ」
「おう」
今夜はこの春入社したばかりの新人歓迎会を兼ねた職場の懇親会。顔合わせも兼ねている為、社員全員の出席が義務付けられている。
全く面倒な話だが、職場の最低限の付き合いとしては避けられない事もある。
ビルが立ち並ぶオフィス街。大通りに出ると週末ということもあって人通りも普段より多かった。腕時計を見ると集合時間まで二十分を切っている。
「急ぐか」
「ああ」
湿った風がビルの隙間を吹きぬけていく中、筧は三井と並んで歩くその歩調を少しだけ速めた。
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