【5】

3/5
前へ
/39ページ
次へ
  *  *  * 「──さん。賢さん! ……賢太郎さんってば!!」  名前を呼ばれてハッとした。 「なんだよー! 最近、考え事多くない?」  寂れたビジネスホテルのベッドの上。  自分の下で横たわる華奢な裸のコウが頬を膨らませた。 「──ごめん。何だっけ」 「エッチの最中に考え事とかやめてよね。さすがに妬くよ?」  そう言ってこちらを睨む顔もまた可愛らしい。 「ごめんごめん。夕飯ご馳走するから機嫌直してくれよ」 「知らないよーだ。高級焼き肉奢ってくんなきゃ、許さないよ。そもそも、今日賢さんが誘って来たんだよ?」  週末。家に一人でいてもろくなことを考えない。気分転換に、とコウを誘ったのは自分 のほうだ。 「また、例の後輩くんのこと考えてたのー?」  考えないように、と思ってもやつは常に傍にいるわけで。考えないようにするというのが無理な話だ。 「──で? そのイケメン後輩くんとは結局どうなったの?」  コウが、興味深々といった顔で筧の顔を覗き込んで来た。 「……どうもなってないから、悩んでんの」  相変わらず、週末は飲みか食事に誘われる。  さすがに毎度断るのも悪い気がして、三井や森田を巻き込んでそれに付き合ったりもするが、君島はそれが気に食わないらしい。  あくまでも、上司と部下。それ以上でも以下でもない、ということをアピールするもそれが納得いかないらしい君島。その攻防戦はいまだ続いている。 「付き合ってあげたらいいじゃん? 嫌いではないんでしょ?」 「嫌いじゃないけど、好きでもないヤツと?」 「案外身体の相性良かったり?」 「どっちもバリバリのタチだけどな」 「譲るの嫌だったら、()っちゃえばいいじゃん! 意外と向こうがそっちに目覚めてくれたりしないかな」  可愛い顔して面白がるような提案をするコウの額に「コラ」と優しくデコピンをした。 「何がそんなにダメなの? イケメンで仕事も出来ておまけに同類! こんなラッキーなことってなくない!?」 「まえに、話したろ? アイツ公言してんの」 「付き合ったら自分もイモ吊る式にゲイバレしちゃうから?」  自分は君島みたいに強くはなれない。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加