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* * *
「──さん。賢さん! ……賢太郎さんってば!!」
名前を呼ばれてハッとした。
「なんだよー! 最近、考え事多くない?」
寂れたビジネスホテルのベッドの上。
自分の下で横たわる華奢な裸のコウが頬を膨らませた。
「──ごめん。何だっけ」
「エッチの最中に考え事とかやめてよね。さすがに妬くよ?」
そう言ってこちらを睨む顔もまた可愛らしい。
「ごめんごめん。夕飯ご馳走するから機嫌直してくれよ」
「知らないよーだ。高級焼き肉奢ってくんなきゃ、許さないよ。そもそも、今日賢さんが誘って来たんだよ?」
週末。家に一人でいてもろくなことを考えない。気分転換に、とコウを誘ったのは自分
のほうだ。
「また、例の後輩くんのこと考えてたのー?」
考えないように、と思ってもやつは常に傍にいるわけで。考えないようにするというのが無理な話だ。
「──で? そのイケメン後輩くんとは結局どうなったの?」
コウが、興味深々といった顔で筧の顔を覗き込んで来た。
「……どうもなってないから、悩んでんの」
相変わらず、週末は飲みか食事に誘われる。
さすがに毎度断るのも悪い気がして、三井や森田を巻き込んでそれに付き合ったりもするが、君島はそれが気に食わないらしい。
あくまでも、上司と部下。それ以上でも以下でもない、ということをアピールするもそれが納得いかないらしい君島。その攻防戦はいまだ続いている。
「付き合ってあげたらいいじゃん? 嫌いではないんでしょ?」
「嫌いじゃないけど、好きでもないヤツと?」
「案外身体の相性良かったり?」
「どっちもバリバリのタチだけどな」
「譲るの嫌だったら、犯っちゃえばいいじゃん! 意外と向こうがそっちに目覚めてくれたりしないかな」
可愛い顔して面白がるような提案をするコウの額に「コラ」と優しくデコピンをした。
「何がそんなにダメなの? イケメンで仕事も出来ておまけに同類! こんなラッキーなことってなくない!?」
「まえに、話したろ? アイツ公言してんの」
「付き合ったら自分もイモ吊る式にゲイバレしちゃうから?」
自分は君島みたいに強くはなれない。
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