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そして迎えた花火大会当日。
あの翌日、会社に行くとなぜかこの花火観賞に自分が参加する的な話になっており、断わるに断われず──今に至る。
昔から、こういう誘いにはあまり乗ってこないほうだった。元々人付き合いが苦手なのもあり、年に数回行われる全員参加の親睦会以外ほとんど顔を出すことがなかった。
営業という仕事柄、取引先の接待などはもちろんビジネスチャンスを割り切っていたが、いまだにこういう内輪の集まりは得意ではない。
「筧さん、こういうの誘っても大丈夫だったんですねー!」
営業部のフロアに、食堂のテーブルを何個か借り、急ごしらえの料理台に買ってきた料理やつまみを並べながら永瀬が笑った。
「筧さん、こういう集まりには出ないって有名だったし。誘っちゃいけないんだって思ってたんですけど、勇気出して誘ってみて良かったです!」
「……いや。変に気づかわせてたみたいで、逆に悪かったなって」
「いえいえ!! 事務の女の子たち、筧さんファン多いんで喜んでますよー」
筧は、営業の得意技である感じよく見える愛想笑いをした。
自分はゲイだし、女の子たちにちやほやされたいとは微塵も思わないが、人として好意を持たれるのは嬉しくないわけじゃない──が、ファンとかあり得ないっての!
「あ! 私、階下に飲み物取りに行かなきゃいけないんだった!」
永瀬が思い出したように言った。
「俺も行こうか? ドリンクだと重量あるから男手のほうがいいだろ」
「本当ですか!? 助かります!」
給湯室の奥にある社員が共同で使える冷蔵庫に向かおうとした筧たちの前に、君島が立ち塞がった。
「それ、俺が代わりますよ。両方男手のほうがより効率いいでしょう?」
「あ、助かる! 共同冷蔵庫の中に、ビール一箱分冷やしてあるから。出した分、ついでに補充もお願いしていい?」
「分かりました。任せてください」
君島が柔らかに微笑んだが、筧は知っている。この笑顔は、営業用に貼りつけられたもの。
笑顔の下が不機嫌さをあらわにしていることに気づいてしまう程度にはこの男のことを分かっている。
給湯室は営業部のフロアの一階下。階段で下へと降りていく。
「さすが、顔以外もイケメンってか」
君島が声を掛けた瞬間の永瀬さんがとても嬉しそうだった。そりゃそうだ。男から見たってうっかり見惚れるレベルにカッコイイ。
「何言ってんすか。潰しにかかってんですよ。筧さんに近づく女は、できるだけ排除しときたいんで」
「何それ……おまえ頭オカシイだろ」
「予想外ですよ。筧さん、こんなん参加するなんて」
「なんか断わりづらくてな」
「そういうとこが、アレなんすよ。隠し切れない人のよさっつーか……ほんと、無自覚なのはタチ悪い」
冷蔵庫の前の放置された空箱に冷えたビールを詰めて持ち上げた。
「この辺のソフトドリンクも持ってくか? 酒飲むヤツばっかじゃねーだろ」
「ああ。確かにそうですね」
そう返事をした君島が、ソフトドリンクの類を両脇に抱えた。
「花火なんてまともに見んの久々だな」
「夏休みとか今まで何してたんすか」
「大学のときのツレと飲んだり、その界隈で男引っ掛けて寝たり」
「うっわー、ふしだらー……」
「おまえに言われたかねーよ」
「今年はそういうの、ナシでお願いしますね。必要なら俺が相手しますんで」
「いらんお世話だよ」
──その時、ドン、ドドン! と一発目の花火が打ち上げられた。
立ち並ぶビルの隙間から上がる花火。近くに大きな運動公園があるため、目の前に遮るものがなく、高層階からは確かに花火が良く見える。
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