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 君島の好意が迷惑な訳じゃない。面倒な事を抜きにすれば、素直に嬉しいとさえ思う。  こんな綺麗な顔して、年下のくせにいつだって余裕で、カッコよくて──そんな男が、自分なんかのためにムキになってる姿を見たら、そりゃ少しばかり心動かされてしまう。  音を立てて上がる花火を見つめていた君島が、静かにこちらを見た。 「何か言って下さいよ。……こんなの、マジカッコ悪くて嫌だ」  君島の横顔が少し赤いのはどうやら花火のせいだけではないらしい。 「俺、昔からこんなルックスなんでモテんすよ」  この男が男女問わずモテるのは充分に分かる。一体、今度は何の自慢だ。 「けど、その分やっかみとかも多くて」  確かに、そういうのは妬みの対象になりうる。 「高校の時は、自分がゲイだって自覚はあっても秘密にしてて──それこそ理由は筧さんと一緒ですよ、そっちのほうが世の中上手く渡れるんじゃないかって──。けど……この顔のせいで女の子がやたら寄ってきて」  君島がそこで言葉を切った。 「当時はまだゲイであることを完全に認めたくなかったのもあって……誰かと試しに付き合って、合わなければ別れてを繰り返してたら、とっかえひっかえとか言われ。それが嫌で断わり続けたら、今度はイイ気になるなとか言われー、もう散々……」  君島が花火を見つめたまま、当時を思い出したかのような少し切なげな表情を見せた。  平平凡凡な自分とはまた違った意味で、君島には君島の苦労があったということなのか。 「人間関係まとめて面倒になって──大学入って知り合ったやつにはゲイ宣言したんすよ。そのころには完全に自覚あったし、もういいやって」  窓の外を眺めていた君島がこちらを見た。 「最初は怖かったですよ、正直。けど、おかげで女の子たちが寄って来んのも随分減って、声掛けて来るのも“友達”ってスタンスの子だけになったからラクになった。男連中も中には酷いこと言ってくるヤツもいたけど、そういうのばっかりでもなくて。ゲイだって宣言して付き合ってる男堂々と紹介して……そしたらみんな普通に付き合ってくれたし、女にも興味がないから趣味とかで繋がるやつも増えて──したら、断然ラクになった。アンタの言う“隠れ蓑”無理して被ってる時よりずっと──」  ゲイだからといってその立場が同じとは限らない。この君島でさえ今に至るまで、幾度も葛藤を繰り返して来たのだ。 「俺はね、強いんじゃないんですよ。こっちのほうがラクだからそうしてるだけであって……。前言った価値観の違いってやつ。筧さんが公言しないことで自分の身を守ってるように、俺もそうしてるだけのことです」  強くて堂々としている君島を羨ましいと思っていた。  けれど、それは自分の身を守るためだった──?  自分が傷づかないようにするための、唯一の術だった──? 「君島……」  そっと触れた肩がほんの少し震えていた。その手の上にそっと重ねられた君島の掌はもっと震えていた。 「今だって影でいろいろ言うヤツいるんですよ。俺だって、正直傷つかないわけじゃあない。……でも、筧さん傍にいるから。アンタいたら、頑張っちゃおうって思えんだから! ──これって、もう恋じゃね?」  君島がゆっくりとこちらを見た。色とりどりの花火に照らされた君島の顔は、また格別に綺麗で目が離せなくなる。  “恋じゃね?” とか訊かれても知るかっての。俺いたら頑張れるとか、何だそのご褒美待ちの子供みたいな告白。無茶苦茶過ぎて呆れてしまう。 「俺、結構嫉妬深いみたいなんすよ──だから、俺以外にモテるのやめてくれます?」 「……は?」 「俺だけを甘やかしてよ」  大きな音と共に立て続けに打ちあがる花火。  花火見物に来てるはずなのに、さっきから俺はこいつの顔しか見ていない。 「──好きです。マジで」  そう言ったかと思うと、更に距離を詰めた君島の唇が静かに自分の唇に重なる。  抵抗はしなかった。正確にはできなかった。  俺の負けだ。そんな君島の姿を、言葉をうっかり可愛いと思ってしまった俺の負け。
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