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花火大会が終わり、フロアの片付けを済ませた後、それぞれの帰路に着いた。
集まった連中のほとんどが、そのまま場所を変えて飲み直すとかで、筧たちも当然声を掛けられたのだが、適当な口実を作ってそれを断った。
静かなタクシーの後部座席の隣には君島。まるで初めて顔を合わせた時のようだが、
今夜の君島はあの時のような泥酔状態ではない。
大通りには花火帰りの人波が溢れ、道路も大混雑。普段ならあっという間に過ぎ去る窓の外の景色は一向に流れて行かない。
「筧さん。さっきのアレ。都合よく解釈していいんすよね?」
「何だよ、今更」
「いや。……なら、いいんですけど」
会話がなんとなくぎこちないのは、真っ暗な給湯室での出来事が未だに身体の奥の熱をたぎらせたままだから。
──エッロイキスしてきやがって。
思い出してしまったことを誤魔化すように手の甲で唇を拭った。
「今日は──泊めてくれんですよね?」
窓の外に視線を向けたままの君島の手がそっと筧の手に重なり、運転手からは見えないように静かに指が絡められた。
「おまえ床でゴロ寝な」
「酷っ! せめてソファ貸してくださいよ」
「おまえの図体じゃ、はみ出るだろ」
「まぁ、確かに」
くだらない会話を続けるのは、絡めた指が熱を持つのが照れくさいから。なのに、君島はさらに深く指を絡め、その指を執拗に擦っては欲情を煽ってくる。
全くとんでもない男に捕まったものだと、大きく息を吐きつつも、その手のぬくもりが心地いいと感じる摩訶不思議。
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