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それから数カ月。煙草休憩を終えてフロアに戻ると、君島が筧を見つけるなり立ち上がった。
「筧さん! キタノコーポレーションさんから今お電話ありまして」
「ああ……何だって?」
「例の契約、オッケーだそうです。明後日改めて来てほしいと──」
「お。マジか」
先方の担当者が外国人で、流暢な英語を話せる君島が主に話をつけてくれていた。新人のころから優秀な部類ではあったが、最近ではめきめきとその頭角を表している。
「つーわけで、はい」
君島がニヤと笑って、掌を俺に差し出した。これは自分に対する褒美の催促。
「わーってるよ。ニヤついてないで仕事戻れ、バカ」
褒美と言っても高級なものを催促される訳ではなく、君島の望む些細な願いを聞きいれてやればいいだけの話。
どこから見ても優秀なこの後輩は、なぜか真面目なだけで他に取り柄もない俺にご執心。
未だにその事実が信じ難く、世の中どうなってんだと筧は首を捻るばかりだ。
「とりあえず、お祝いに飯っすね」
「おまえの奢りな」
「何言ってんすか、ここは先輩が奢るとこでしょ」
「じゃあ、さっさと仕事片付けろ」
苦手だったはずのこの後輩のなんとも強引で真っ直ぐな想いにほだされ、絶賛順調にお付き合い中。これこそ自分の人生史上最大のミラクルだ。
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