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 懇親会は二次会のカラオケ店に移動して早一時間が過ぎた。  一次会だけで帰ろうと思っていたところを、普段世話になっている先輩社員に掴まり強制連行され今に至る。  引き上げ時を見計らい筧がトイレに立ったところ、そのトイレの洗面台に突っ伏してグロッキー状態になっている君島と遭遇した。  用を足しながらヤツの後ろ姿を盗み見る。毎年、この新人歓迎会は別名“新人潰し”と言われていて、その名の通り新人がしこたま飲まされ潰されるのが恒例で、筧自身も通って来た道だ。 「おい。……大丈夫か?」  筧が声を掛けると、君島がゆっくりと顔を上げた。 「だいぶ、飲まされたのか」  すると君島が弱々しく頭を振った。 「悪く思うなよ。ちょい手荒いが、洗礼みたいなモンだから」  軽く背中をさすってやると「……あざっす」と君島が力なく礼を言った。 「意外だな。居酒屋にいたときは顔色変えずに飲んでたから相当強いんだと思ってたわ」 「いや、決して弱いほうじゃないと思うんですけど──なんつったっけ、企画部の那賀谷……さん? あの人容赦なくて。ココ来てから凄い勢いで飲まされまして」 「──そりゃ厄介な人に捉まってたな。あの人ザルだから」  那賀谷は社内一の酒豪と言われている男。アルコールをまるで水のように喉に流し込む(さま)を思い出し苦笑いをした。  新人の試練とはいえ、それこそ浴びるように飲まされていたことが想像できるだけに、このイケメンにほんの少し同情した。
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