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わたしの朝
高校生になってから、時の流れが早いように感じる。
偶然知り合った学年一の有名人(変わり者)の先輩に誘われ、オカルト研究部に入部して早1ヶ月。
まだまだ先輩の事も部活の事もわからない事だらけだけれど。
不思議なことに、イヤだとは思わない。むしろ部活動を楽しみにしている自分がいる。
「できた……!」
丁寧に盛りつけたお弁当を前に、思わず頬が緩む。
お弁当は2つ。1つは自分の分。もう1つは先輩の分。
(先輩、喜んでくれるかな?)
ただ残念な事に、これは好きな先輩へのプレゼントという物ではない。
お昼ご飯を食べないオカ部の部長、上垣夏音先輩へのプレゼントなのだ。
「先輩は、こうでもしないと食べないんだから」
ブツブツと文句を垂れながら、赤いギンガムチェックの巾着にお弁当箱を入れる。
オカ部の部長は、一言で表すと不思議な人。
一見、艶やかな黒髪の美しい清楚な美少女。
だけど中身は……残念な人。
一人称は僕だし、オカルトが大好きで、学校でも有名な変わり者。
ただ……。わたしは知ってる。
本当の部長は優しくて、不思議な魅力を持った人。
部長の大きな栗色の瞳に見つめられると、心臓がどよめく。
この人には敵わないと。
ラジオから朝のニュースが流れる。
時計を確認すると予定していた出発の時間を過ぎていた。
わたしの家から駅までは、少し距離がある。そろそろ行かないと。
わたしは2つのお弁当とカバンを抱えて玄関へ走った。
キッチンを出ると隣のリビングで母と鉢合わせした。
母は寝起きだったらしく、まだパジャマ姿のままだ。
わたしは朝の挨拶もそこそこに、慌てて玄関へと向かう。
すると、母に呼び止められた。
「ユナ、傘持っていきなさい」
「わかった」
靴箱の隣にある傘立てから、お気に入りの薄ピンクの傘を取り出す。
そこでふと、疑問に思った。
母は今起きたばかりのはず。
わたしはお弁当を作りながらラジオを聞いていた。
けど、天気予報で今日は雨なんて言っていたかな?
数秒間考えたけれど、雨に降られるよりはマシなので、素直に傘を持っていくことにした。
わたしはごく普通の家庭で育った。両親との関係も、普通。
父とはあんまり話さないけれど、一緒に居るのが嫌なわけじゃない。
父と娘ってそんなものだと思う。母とも、そうだ。
仕事と家事を両立する母に、2つもお弁当を頼むのが申し訳なくて自作するようになっただけ。
小中学校の友人と、何ら変わりのない家族関係。
だから、わたしは知らなかった。
それが、当たり前じゃない人も居るんだってことを……。
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