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水仙
水曜日は、いつもより早起きする。
普段より1本早い電車に乗って、駅からバスに乗り換え学校へ向かう。
バスは賑やかな駅前通りから、だんだんと人の少ない道を進んで行く。
病院前で多くの人が降りると、学生はわたし一人になった。
病院前と住宅街を通りすぎて5階建てのマンションが見えた頃、わたしはバスの停車ボタンを押す。
バスはマンション近くのバス停で、ゆっくりと停車した。
今ここで降りるのは、わたし一人だけ。
普段から早めに登校するので、今日はわたしが一番乗りかもしれない。
バス停から少し歩くと、5階建てのマンション。
隣にある公園の前を通りすぎる時、ふと思い出した。
あの子は、無事に帰れただろうか?
公園を挟むように5階建てのマンションが二棟並んで建っている。
一棟は生徒用。もう一棟は教師用。
後で聞いた話によると、このマンションはわたし達の通う学校の生徒と教師専用のものらしい。
小さな子供が居たら目立ちそうなのに、見たことがない。
よそ見をしながら歩いていると、爪先に何かが触れた。
慌てて足元を確認すると、枯れかかった花束が置かれていた。
わたしはその花束を蹴ってしまったらしい。
「ご、ごめんなさい‼」
慌ててその場に屈んで、手を合わせた。
きっと誰かがここで亡くなったのだろう。
水仙だったと思われる、黒ずんだ花束が電信柱に立て掛けられていた。
わたしは目を閉じて、改めてさっき花束を蹴ってしまった事を詫びた。
そして再び手を合わせ、黙祷する。
今のわたしに出来ること。それは、手を合わせるだけだったから。
目を開けると、学校へと走った。今日早起きした理由のために。
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