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待ち合わせ
先輩との用事で、今日の部活は休みになった。
授業が終わると、クラスの友達への挨拶もそこそこに急いで校門前へ向かって走る。
正面玄関を駆け抜けると、校門に寄りかかる先輩の姿が見えた。
先輩は先に着いて、わたしを待っているようだ。
急ぎ足で先輩の元へと向かった。
「先輩……」
いつもと様子が違う。
先輩は両手でカバンを持ち、無言のまま自分の足の爪先を見つめている。
今まで見たことの無い、感情の欠けた顔。
先輩の整った容姿と相まって、まるで本物の人形みたい。
いつもの先輩とは別人のようで、どう声をかけたものかと躊躇った。
「……江沢君」
「はい‼」
先輩の低い声に、条件反射で返事をする。
先輩は、なぜか苛立っているようだ。
わたしが遅れたくらいで怒る人じゃないのに。
「行くぞ」
ぶっきらぼうに言うと、先輩は校舎に向かって歩き出した。
わたしと一緒に行きたい所。
それは学校の中にあるんだろうか?
正面玄関の方に歩いたと思ったら、急に方向転換。
校舎にそって、歩みを進める。
やがて茶色いレンガに囲まれた花壇の前で、先輩は立ち止まった。
花壇には園芸部が大切に育てた花が咲いている。
先輩はそれをハサミも使わず無造作に、ブチりと引きちぎった。
「何するんですか!?」
わたしは咎めるように言った。
「……お供えだよ」
お供え。
今日行こうとしてるのって!
ハッとして、先輩を見る。
その横顔には、隠しきれない悲しみが浮かんでいる。
その表情に胸を締め付けられ、わたしは何も言えなくなった。
先輩はカバンから新聞紙を取り出すと、引きちぎった花をクルリと包む。
バラバラだった花はまとめられ、黄色の束になる。
先輩はカバンと花束を右手に持つと再び歩き始めた。
「園芸部には──」
「知り合いがいる。後で上手く言っておく」
それで本当に大丈夫なのかな。
園芸部の人達に心の中で詫びてから、再び歩き出した先輩の後ろを追いかける。
校門を出て、緩やかな坂道を下る。鬱蒼と生い茂る木々が、わたし達の姿をそっと覆い隠した。
後ろめたいからか、普段は怖いと思うその木々も、今日は隠れ家のような安心感がある。
下校する生徒達の列から離れ始めた頃、先輩の隣に並んで話しかけた。
ずっと、気になっていたから。
「誰のお参りに行くんですか?」
「……友達」
先輩の、友達。
そうか。だから、先輩は……。
さっきの寂しげな横顔を思い出す。
「意外か?」
「……少し」
わたしは正直に答える。
学校でこっくりさんをするくらいオカルト好きな先輩に、そんな過去があるのは少しだけ意外だった。
「心外だな」
先輩が眉をひそめて言う。
「僕にだって、友達の一人くらいは居るのに」
そうですよね……。
わたし達は、どこか噛み合わない。
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