妖怪一つ目小僧

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妖怪一つ目小僧

 今日は朝から空気がジメジメしていて、空は雨が降るのかはっきりしないままの灰色であった。  人間たちにはジメジメした空気とどんよりした空であれば真昼でもこの世は墓場に見える。  一方の妖怪たちにとってはこんな日の気分は爽快となるばかりで、しかして妖怪たちには人間を驚かす張り合いが大いに出るというものだ。  ただ、今日は妖怪たちが活気づくには最適な日であり過ぎた。だから、人間たちの多くは家の中に引きこもってしまって妖怪たちには退屈なばかりだった。  今日は快適でも退屈な一日になると大あくびをする妖怪たちが多い中で、快適でも退屈な一日を歓迎する妖怪たちがいた。  妖怪一つ目小僧もその中の者であった。一つ目小僧のように非力な妖怪は外を出歩く人間たちの姿が少ないと都合がよい。人目をはばかることなく堂々と外を出歩けるからだ。 「てるてる坊主、てる坊主~。明日もこんな日にしておくれ~」  一つ目小僧は人間の歌を真似ながらカラコロ、カラコロンと陽気に下駄を鳴らして棲み家となっている廃寺への道を歩く。  いつもは昼日中に道を歩こうものなら人間とすれ違いやしないかと木立の影を歩く一つ目小僧であったが、こんな天気が悪くて空気もジメジメしている(妖怪たちには)気分の良い日に寂れた林道を歩くなんて人間はいない。木立を左右に道の真ん中を堂々と歩けるのは気分が良かった――だから、一つ目小僧はいつもだったら見過ごしてしまうことに気づけたのだろう。  木立の中にぽっかりと空き地があった。そこには人間が捨てたか置いていった大石があった。その大石自体は特別物珍しいものではなかった。一つ目小僧はこの辺りを歩くときにそれをよく見かけていた。それなのに、では、一体何が一つ目小僧の気を引いたのか。  一つ目小僧は大石の下に歩み寄り、地面の一部分を見つめた。砂で巧妙に地ならしされていたが、大石の下に何かが埋められた跡があった。  一つ目小僧の大きな目だから気づけたのだ。 「何だろう?」  一つ目小僧は柔らかい地面を掘る。果たして、地面の中から出てきた物とは透明な袋に入れられた一冊の本であった。  その本の表紙には裸の人間の女が描かれていて、その絵の周囲には人間の文字が大小たくさん踊っていた。  一つ目小僧が透明な袋から本を取り出そうとしたその時、 「鬼滅唱!」  背後から攻撃お経が飛んできた。
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