老僧

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老僧

 一つ目小僧は本能で身をかがめ、自分を退治しようと唱えられたお経の衝撃から逃れた。 「な、何なのっ!?」  一つ目小僧は妖怪を退治するお経に狙われたのは初めてだった。自分のように人間を驚かせるのが精一杯の非力な妖怪まで退治しようなんて、妖怪たちを全滅させる覚悟があってに等しい。 「大生・法理……」  妖怪にとって危険なお経を唱えているのは、紫色の袈裟と黒色の法衣を身に着けた老僧だ。 「ちょっとまってよ、お坊さん! おいら妖怪でも、あんたに退治されるようなバケモノじゃないよ!」 「問答無用唱! 唱! 唱! 唱!」 「ひっ、うっ、はっ、ふっ!」  五感能力だけは抜群の一つ目小僧は、かまいたちのように見えない衝撃波をも本能で感知して巧みに避ける避ける。 「小坊主。お主、ただ者ではないな?」  すっと目を細くする老僧に、一つ目小僧は本気で自分の命を取りに来る相手だと恐怖した。 「だからって……」  大した妖怪だと認められてもちっとも嬉しい状況ではない。 「破ァ~っ……」  老僧の顔から血の気が消えた。指の関節が限界まで曲げられた印の構えになる。  老僧のこちらへの敵意が問答無用から手加減無用、情け無用に切り替わっていくのを一つ目小僧は感じ取った。  バラバラにしてやるどころか、灰の一粒さえ遺さないという覚悟。  一〇〇年先まで語られるだろう妖怪退治の大場面。  その両者の間に、薄茶色の影が割って入った。 「あっ! 猫又の姐さん!」 「あんた、何やってんだい!? まったく!!」  猫又は四つん這いに上半身を下げ、老僧に怒鳴った。
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