妖怪から傘お化け

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妖怪から傘お化け

「大変だ大変だ! から傘お化けどーん!」  一つ目小僧は、森の足湯で一本足を浸していた妖怪から傘お化けに体当たりで飛びついた。 「何事だい!?」  危うく足湯に顔から倒れそうになったから傘お化けであった。 「何だい、どうしたって、そりゃおいらが聞きたい、知りたいよ!」 「まあ落ち着けって。一つ目小僧」  一つ目小僧とから傘お化け、一つ目同士が顔を見合わせた。  一つ目小僧はさっき突然老僧に襲われたことをから傘お化けに話した。 「老けた坊さんが突然襲いかかってきた? その理由がわからない?」 「うんうん。あれは本気でおいらを退治しようって目だったよ。でも、おいら、人間にはいたずら程度で、悪さなんてほどはした記憶ないのに。人間に恨まれるようなことなんて絶対にしたことないよ」  一つ目小僧から事情を聞いたから傘お化けは腕組みをして考えた。 「猫又の姐さんが間に入って助けてくれなかったら、ほんと危なかったみたいだな。うーん? 一つ目小僧の一体何がその老僧の気に触ったのだろう?」  から傘お化けは一つ目小僧の姿をじっと見た。おや?――っと、一つ目小僧が手にしている物に気づく。 「一つ目小僧。その手に持っている透明な袋に入っている物は一体何だい?」 「ああ、これ?」  言われて一つ目小僧は思い出した。 「これさ、大石の下に埋められていたんだよ。人間の本だろうけどね」  一つ目小僧は透明な袋から一冊の本を取り出した。  から傘お化けは一つ目小僧から本を受け取り、その表紙をしげしげと眺めた。 「裸の人間の女の絵だ。人間の女の裸なんて見てもちぃっとも面白くはないな」  から傘お化けは何気なしにパラパラと本をめくっていく。 「……」  その本をめくる速さがだんだんと鈍ってきた。から傘お化けの大きな一つ目が半目となる。 「急に無口になっちゃって、どうしたんだい? から傘お化けどん」 「……な、ん、じゃ、こりゃあああっ!?」 「ひぃぃやあああああっ!?」  から傘お化けが急に大声を出したので一つ目小僧はひっくり返るように驚いた。 「から傘お化けどん!」 「はっ!?」  一つ目小僧に体を揺さぶられたから傘お化けは正気に戻り、めくっていた本をパシンと閉じた。 「ヤバいヤバさよ。猫又の姐さんは老僧相手にどうなったんだ?」  今度はから傘お化けが一つ目小僧の体を激しく揺さぶった。 「わ、わ、わ、わかんない。この場は逃げろ言われて、おいら逃げ出しちゃったから。ん?」  から傘お化けが本を突き返してきたので一つ目小僧は受け取り、自分もパラパラと本をめくって中身を確認してみた。 「ん? んんん? んー!?」  本の中身は恐るべき内容だった。異様な【自主規制】に溢れた裸の人間たちが組んだり絡み合ったり、そりゃもう、この世のものとは思えない光景が描かれていた。 「何これ? 人間たちが【過激な場面につき、お伝えできません】ている、ばばば、バケモノどもが描かれてるよ!」 「ああ。人間はそういうものだって表現してんだよ。本当にあったことを絵にしているのだとしたら、人間どもって、バケモノだよ! でも、人間同士が尋常では【これは言えない】溺れている絵が問題なんかじゃないんだ。さあ、一つ目小僧。本の真ん中あたりに描かれている絵を見てみるんだ」 「……な」  言われた辺りのところをめくってみると、一つ目小僧の大きめ目の白目がさらに大きく見開かれた。 「ん、だ、こりゃああ!?」  果たして、そこに描かれていたものとは――、獣の耳と尻尾を持つ女が【ピー音】ている場面であった。 「その女、もしかして、猫又を描いているんじゃないのか?」 「はっ!? に、似ている! 猫又の姐さんに似ているよ」  二人はまじまじと本の中身を観察した。 「破戒僧に捕まっている場面だ」 「人間はこんなバケモノなんだよ。老僧から一つ目小僧を助けてくれた猫又の姐さんが危ない!」 「ヤバヤバイよ!」  一つ目小僧は逃げてきた道を全力で引き返した。から傘お化けも必死にその後を追った。
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