再び老僧

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再び老僧

 木立の間を駆ける一つ目小僧とから傘お化け。彼らの前に突如人間の影が立ちはだかった。 「すわっ、出た!?」 「ちょっ、まっ!?」  先程自分に襲いかかってきた老僧がいきなり目の前に現れて一つ目小僧は急停止。そこへ後ろから必死に追いかけてきたから傘お化けが体当たりしてきて、二人は団子のようにもつれ合って地面を転がった。 「おっと、危ない」  老僧がもつれ合って転がってきた二人を優しく受け止めた。 「こら、妖怪の小僧ども。いくら人の気配が少ない木立の中でも、今は人間の時間の昼日中に、お前らちょっと派手に動きすぎじゃぞ」 「あ、すみません。じゃなくて!」  老僧の温かい手を一つ目小僧はぱっと振り払った。 「さっき問答無用の情け無用でおいらを退治しようとした人間が一体何を言ってんだい!」  一つ目小僧に非難された老僧は「はて?」と首をひねり、思案投げ首とし、「もしや?」と思い当たることがあった。 「お前ら、あれを見たのか?」 「あれって、おいらを退治しようとしたお坊さんのことだよね?」  一つ目小僧は「あんた」と老僧を指差す。 「そう、私じゃな……って、あれは私ではあるが、私ではない。断じて違う!」  から傘お化けは不思議がる一つ目小僧の肩をポンポンと叩き、その耳元に囁いた。 「かわいそうに。人間たちの中には、心にもう一人の自分を宿すって者がいるらしいぞ」 「一つの体に二つの魂が入っているってこと?」  一つ目小僧は老僧の顔をしげしげと見つめて言った。  から傘お化けは首を横に振り、病気なんだ、と付け加えた。 「お大事にしてね」  一つ目小僧たちは「さよなら」と手を振った。 「優しい妖怪たちじゃなあ」  老僧は思いやりのある妖怪たちを見て感動した。去っていくその姿を見送る視界がじわりと涙で滲んだ。  おしまい―― 「では、ない! おい待つのだ、そこの妖怪の坊主ども!」  さっさと去っていく一つ目小僧たちを老僧は追いかけた。 「うわっ、追いかけてきたぞ!」  一つ目小僧たちは手足を思いっきり振って全力で駆け出す。 「待てと言うのに! おい、その手に持ってる本だ、本!」  老僧は逃げる一つ目小僧の手に握られている一冊の本を見て叫んだ。  一つ目小僧は老僧から逃げながら思い出した。  あの老僧、さっき出会ったときも「本だ、本!」と叫んでいた――ような気がする。  一つ目小僧は、顔だけちらりと振り返って、  何にせよ、あんなのに捕まったらオシマイだ――  と、老僧の鬼気迫る顔にただただ恐怖した。
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