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バケモノ、現る
「待つんだい、一つ目小僧」
今度はから傘お化けに呼び止められた。これには一つ目小僧も逃げる足を止めるしかなかった。
「どうしたんだい? から傘お化けどん」
「あれを見ろ」
から傘お化けが指差した先の木立から老僧がぬうっと姿を見せた。
「バカな? あの人間の老僧。妖怪のおいらたちの足より速く、いつの間に先回りしたんだ?」
「討伐唱!」
老僧からの攻撃お経が一つ目小僧たちに飛んできた。
「守護唱!」
一つ目小僧たちの背後から別の攻撃お経が飛んできて、一つ目小僧たちの前方から向かってくる攻撃お経と衝突した。
衝撃波同士が激しくぶつかり弾け、一つ目小僧たちと周囲の木立をビリビリと揺らした。
「ひいっ」
もう何がどうなっているのかわからない。
一つ目小僧たちは同じ顔をした二人の老僧に挟まれて身動きできなくなった。
「ふ、双子かな?」
「違う」
から傘お化けの言葉を背後から追いかけてきた老僧が否定した。
「あやつは妖怪……いや、バケモノじゃ。あれは、一つ目小僧、お前が持つその本から私の煩悩が生み出した――」
好色怪物エロガッパ!
「……。なあ、一つ目小僧」
「わかってるよ。おいらも、いま、すげえ呆れてるんだ」
「あ、ああ。何にせよ、お前が持っているその本だな。それが事の元凶のようだ」
それならばやることは一つ、とから傘お化けは懐から火打ち石を取り出した。
「焚書って言うんだ」
「さすが、から傘お化けどん。難しい言葉を知っている」
「あ、いや、お前ら、ちょっと待て」
人間の老僧が慌てて一つ目小僧たちの元へ駆け寄った。
「いかんな、子供が火遊びとは。というか、から傘お化け。お前、その火打ち石を今一体どこから取り出した?」
から傘お化けは聞くだけ野暮だと鼻(から傘のどこにある?)で笑った。
「この本、湿ってるのか、なかなか火がつかないな」
「なんだかシワになってる部分が多いよね」
「恥ずかしい会話してんな。私の話を聞け!」
「もっと火だ、火をくれ!」
から傘お化けが「火をよこせ」と叫んだら、老僧に化けてるエロガッパが
「燃唱!」
と攻撃お経を唱えた。
瞬間、ボッ! と一つ目小僧の右腕が燃えだした。
「うわっ、おいらの手が燃える」
一つ目小僧は腕を振り回して身にまとわりつく火を振り払った。飛び散った火の粉がその手の中の本に飛び移り、
「あっちぃ!」
一つ目小僧は燃え上がった本を持っていられなくなって、それを空に向かって放り投げた。
放り投げられた本は空中でさらに燃え上がり、綴じられていた部分からバラバラになって灰燼と化し、それでも燃え尽きなった一部分が風に流されていった。
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