永年保護室

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「少年課の田中が選んでんのかな。そういうの」 「窃盗に恐喝、傷害、脅迫、なんだか数えたら嫌になるな」  キュルキュル、ドゥルンドゥルン。 「おし、エンジンかかった。行くぞ」  慣れたものだとは思った。なにせこれで盗品十台目だったから。佐久間とは中学の頃の付き合いで、友情、とは程遠いいわゆる腐れ縁の流れだ。スピード、その体感によって俺たちは結びついていた。  そして夜の街に俺たちは羽ばたく。道路帯2つを行き来して蛇行運転を繰り返す。残光を残して、テールランプは揺れているようだった。  暴走しているが、俺たちは暴走族ではない。チームなんてものは足枷だ。ただ、自由にしたい。この速度だって、いつだって、どこまでも。  329号線。交差点まであと1キロ。この時間帯、いつも車通りははない。いつもパトカー君と追いかけっこをしているドックラン的な場所だ。道の脇には街路樹が等間隔で植えられていて、標識と同じ高さにある。  俺たちはその遥か前の赤信号で止まってアクセルを吹かす。 「佐久間、俺は今日はお前をぶっち切るぜ」 「抜けるもんなら抜いてみな。今日のジュースはお前の奢りだ」  佐久間はヘルメット越しにニヤリと嗤う。あいにく碌でなしに奢る金はない。  だから、勝負はーー。  信号が青に変わる。  俺が勝つ。  二台のアクセルが解き放たれた。初速の段階では俺が一馬身先にでた。  ギアを変えて、アクセルをさらに目一杯引く。50、70、90、120、140、スピードメータがさらに上がっていく。馬鹿みたいな世界だ。街にあった世界が通り過ぎていく。1秒で遠くへ、どこまでへも行ける、この広い世界ではちっぽけだけれど、でも確かに進んでいるという感覚が気持ちいい。僅かに佐久間を見た。交差点が赤信号なのをみて佐久間はそれ以上追いきれなかった。懸命に負け犬の遠吠えのように叫んでいる。ビビリが。  視線を正面に向くと、左から車が侵入しようとしていた。  俺は「あっ」という短い声を上げて、ハンドルを切った時には、宙を舞っていた。
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