永年保護室

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 俺はいったいどうなってしまうんだろうか。  それから三日間はこの部屋にいた。  運動不足。  その言葉が意味を成すのは健康体だからだ。こんな身体になってしまっては元も子もない。  俺が社会的に消え去った世界はどうなっているんだろうか。上手くみんなの世界は回っているのだろうか。  俺の世界は最近、破滅気味だ。  食事も真っ白な雑炊や白パン、どうやら黒く塗り重ねた俺をよっぽど白く塗り重ねたいらしい。  そんな折、検診以外で初めてドアが開かれた。二人組だった。  しかし、お馴染みの格好ををしているので、誰かはわからない。今度は俺に何をしようって腹だ。 「裕太、傷は大丈夫なの? お母さんよ」  その一言は衝撃的で、きっと過去の俺なら一蹴していたその言葉は、甘く、懐かしくて、こんな落ちこぼれを見守ってくれた母からの愛情を思い知った。俺にとって母とはこんなにも偉大なものだったのだ。 「母さん、どうして、俺はこんなところに」 「それはねぇ。まだ」 「ーーどうしたもこうしたもない‼︎」  落雷だった。  弱音を吐こうとした俺の涙腺はピタリと閉じた。父は激しく激怒していた。 「お前が事故を起こしたからだ‼︎ 公道を120㎞で走りよってからに事故だと、この馬鹿者が‼︎」  俺は身体を縮こませる。 「あなた、今は裕太は」 「そんな時じゃないだろう。いいか。私たちは事故の慰謝料で住む家を失いそうなんだぞ。笑えるぞ裕太。俺が20年払い続けた家を売らないといけなくなったんだ。全てお前のせいでな」  雷は大木に直撃して、その身を焼き焦がした。  俺はなんと言っていいか、わからなくなった。どうしたらその罪を帳消しに出来るかまるで取っ掛かりもない、途方もない話だった。 「もう帰る家はなくなったぞ。よかったな。死ぬまでここにいろ」 「あっあなた。待ってー。ごめんね裕太、また来るから」  父と母は出ていった。  その日の夜、涙が止まらなかった。後悔とはこんな時に使うものだと初めて知った。あの時はなんでもできると思い上がっていた。逆だった。ただ人を喰い物にしているだけだったのだ。自分がどれほどの人間か今ならよくわかる。
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