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「よかった、似合ってる」
途端に、私の顔がボッと音を立てるほどに赤くなった。
いきなりそんな顔で、そのセリフは……先輩、卑怯すぎる!
先輩の視線は首元のネックレス。それを意識しただけで、その場所まで熱を帯びてくる。
「せ、先輩が選んだんですよね?」
「え……あ……うん」
なんだか、してやられてばかりじゃ悔しい。
少し恥ずかしいけれど、私は意を決して言ってみた。
「なら、似合わないはずないじゃないですか」
「……」
先輩が咄嗟に後ろを向く。どうやら、私のこの一言はかなり効いたようだ。
「せーんぱい」
「絶対こっち見るな」
「見ませんよ。先輩が今どんな顔してるか、わかりますから」
「なんでだよ!」
あ、こっち向いた。
「~~~~っ!」
だって、耳が真っ赤なんですってば。
先輩と同じ学年、同じクラスの人たちでも知らないだろう。仲のいい田中先輩だって、知っているか怪しい。
クールで何事にも動じず、ひたすら本好きで。眼鏡のおかげで以前のような不機嫌顔ではなくなったけれど、あまり表情は変わらず、淡々としている。それがいつもの「藤沢章臣」だ。
ごくごく一部しか知らない先輩のこんな顔を知る自分が、誇らしくてたまらない。嬉しくてたまらない。
「先輩!」
「うるさい」
こんな風に拗ねた先輩も、可愛くてかっこいい。
3月14日。私にとって、忘れられない特別な一日。
来年もまた、こんな風に先輩と一緒に過ごしたい。
そんな風に思いながら、私は先輩に向かって満面の笑みを向けた。
了
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