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二人から逃げるようにして先輩の部屋へとやって来た私たちは、どことなくぎこちない。そして、先輩は相変わらずきちんと部屋のドアを少し開けている。
しかし、そこへお母さんがお茶を持ってきて、こう言った。
「あら、章臣、ドア開けてると寒いでしょ。ごめんなさいね、まどかちゃん」
「いえ、あの……」
先輩は気を遣ってくれてるんです……。
「寒いし、落ち着かないし、嫌よね。あ、大丈夫よ、まどかちゃん。知ってると思うけど、章臣ってへたれだからそうそう手なんて出してこないから。じゃ、閉めていくわね」
パタン。
藤沢先輩を見ると、小さく呻きながら蹲っている。先輩のこんな姿はかなりレアだ。申し訳ないけれど、思わず写真を撮りたい衝動に駆られる。
「あの、先輩? えっと、私は気にしないので大丈夫ですよ?」
「あのな……」
先輩はまだ唸っている。お母さんが先輩をからかうのなんていつものことだし、唸るほどのことでもないのに。
そう思って先輩を覗き込もうとすると、その前にガバッと顔を上げた。
「ちょ、ちょっとは気にしろよ! 手を出さないなんて保証、どこにもないだろ!」
え……。
私の目が点になった。呆然としていると、先輩はくるりと背を向け、机の辺りをごそごそとし始める。
言い逃げ!? 先輩、今のはどういう意味ですかっ??
心臓がバクバクと脈打っている。このまま口から飛び出してくるんじゃないかと思う。口から心臓が飛び出てきたら……間違いなく死ぬな。
そんな馬鹿なことを考えていると、先輩が包みをグイと押し付けた。条件反射のようにそれを受け取り、見てみると。
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