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「……」
どうしよう。言葉が出てこない。というか、声を出すとバレてしまう。
胸がいっぱいで、息が苦しくて、何度拭っても止まらなくなっている雫。
「平井……? って、うわっ!!」
あまりにも静かな私に、どうしたのかと思ったのだろう。先輩がこっちを振り返り、その瞬間に固まった。
私は慌てて顔を俯け、叫ぶ。
「なっ、なんでこっち向くんですか! 後ろ向いてるって言ったじゃないですか!」
「いや、でも……反応なくて、どうしたのかと……」
先輩の声音から、先輩の動揺が伝わってきた。それはそうだろう、振り向いたら、いきなり私がボロボロに泣いていたのだから。
でも、そんなの仕方ない。こんな可愛いアクセサリーをプレゼントされるなんて、思ってもみなかったから。嬉しすぎて泣くしかないじゃないか。
「平井……」
心配そうな声に、私はほんの少しだけ顔をあげ、何とか声を出す。
「すごく可愛い……。大切に……します」
涙声で掠れてしまっているけれど、それはもう勘弁してほしい。
すると、先輩は大きく息を吐き出した。
「よかった……。嫌なのかと思った」
「そんなわけないじゃないですか」
私がこんなに泣くのは二度目だ。一度目は、卒業式の日。藤沢先輩から好きだと言われた日。
あの時も、先輩は私が嫌なのかと思って心配していた。
「先輩……私が本当に嫌な時は、たぶん泣きません。嫌だってちゃんと言います」
「……わかった」
先輩の声が心から安堵する。私は、ゆっくりと顔をあげた。あげた瞬間、先輩の見惚れるような笑顔とぶつかる。
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