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ハデス車を買う
元警察庁祓魔課の日常
某地方都市に、稲荷山グループが造成し、建築した無人の町並みが広がっていたという。
数年前に発生した大霊災、闇のゴールデンウィークは、日本国内に巨大な爪痕を残していた。
総計で千人にも上る犠牲者を出した大災害であった。
世界でも名だたる大企業である稲荷山グループも多大な打撃を被った。
だが、稲荷山グループは霊災を全く意に介さず今も成長を続け、ついには世界経済を塗り替える新たな試みが、このニュータウン実験場で実を結ぼうとしていた。
「降魔さま。お願いいたします。どうか、この無人の町に新たな光を」
控えていた現稲荷山グループ総帥、稲荷山牡丹が頭を下げた。
頭を下げられた男は平然とそこに立っていた。
「かずーー魔王の奴が持ってきた魔力炉がこれだな?霊力と魔力はほぼ同じものだ。それはうちの学校の腐れ女が証明していた。これが上手く行けばエネルギー問題に終止符が打たれる。無人世帯が14000。これでヤコの尻拭いが一歩前進する。被災者のケアの仮設住宅街か。結構おしゃれな町だ。立ちはだかる問題を一挙に解決する一手を打つぞ」
稲荷山グループは、新たにして絶大な力を得ていた。
何しろ、前総帥が傅く稲荷山の絶対君主勘解由小路降魔代議士は、どういう訳か冥界の王、神ハデスなのだから。
町の建造に1000億近い金を浪費した無人の町。
かつて勘解由小路が暴れた痕跡は今も残っていた。
ここは某県某市、四方静山という資産家が作った町。
全ての住人が蜘蛛に食われたこの町は、ほとんど全てが再建され、甦りつつあった。
しかし、町は無明の闇の中にあった。
「さて、こういう時は。ああそうだ。こないだ死んだ奴の言葉であれだが。光あれ」
勘解由小路は新造された大規模発電施設の前にいた。
奇妙なのは炉の形状にあった。
炉は火力発電でもなければ、勿論原子炉でもなかった。
異世界アースツーから特別に輸入ーー実際勘解由小路自ら自宅の転移法陣からアースツーに赴き、観光ついでにサウスフォートから貰ってきたものを解析し、フォーマットしてアースワンでも使えるように改造したものだった。
要するに、面を外した袋田さん印の魔力炉改め霊力炉、試作型霊炉心レロレロ1号。
名付けた馬鹿本人が炉心のコンデンサーに触れ、霊力を込めた。
真っ暗だった町に、明かりが満ちていった。
町の中心に勘解由小路が建てた、30階建てのビルには、明かりがこう文字を表した。
おめでとうイエーイ。
実際馬鹿丸出しではあったが、炉心の建造に携わった研究者達は、エネルギー問題の完全な解決に沸き上がっていた。
「凄い!猊下の霊力が電力に変換されています!素晴らしい!ノーベル賞ものです!猊下お一人でこのエネルギーのない町に新たな光が!その電力量はこの町の優に一年分に相当します!猊下万歳!この発電所に新たな力が!猊下お一人でこの町のエネルギー問題は完璧に解消されました!猊下!猊下!」
「そう興奮するなよ。所詮は試作段階だ。炉の小型化が進めばもっと小さなものーー自動車なんかにも応用可能だ。今のところ人間の霊力に頼らざるを得ないのは問題だ。牡丹、お前一人じゃあこの町の精々1ヶ月程度だろう。まあそれでも大したもんだが」
頷いて牡丹は言った。
「確かに、私如きではその程度でございます。されど、たったお一人で炉心の臨界までエネルギーを充填される降魔さまのお力は驚愕せざるを得ません。まさに畏敬に値します。年内中に降魔さまが仰っていた事柄は現実となります。エネルギー源に関しては大量の人化オーガがおります。ご安心ください。早急に人的問題を解決してごらんにいれますわ。これは私の最後の仕事となりましょう。莉里お嬢様をお迎えし、我等稲荷山はその権勢をいよいよままにすることでしょう」
「ああ。まあ、本人がやるならいいんだろうな。牡丹は引退と同時に結婚だったっけか。鵺春じゃなくて、あれか。大学生の企業研修生だったな?呪禁師の末裔のイケメンツバメだったっけ?」
「そ!それは!一応、社外秘だったのですが」
「まあいいんじゃないか?頑張れ牡丹。とりあえず小型化と中型化が急務だな。ああそれから、今度新造される護衛艦いずもだっけ。実質空母になってる。あれに関わっちまおう。エンジンシステムをレロレロに出来れば、今後の軍事に革命が起こるぞ。原子炉が時代遅れになる。兵器そのものを製造出来ないのは口惜しいが、エンジンシステムをうちで独占しちまおう。頼むぞみんな」
御意!
スタッフ全員の返答が響き渡っていた。
冥界神ハデスによるエネルギー革命は既に佳境にあったのだった。
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