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周囲の人間を全て動物にしてしまう、恐ろしい相手とトキは対峙していた。
「我々は生きる為に肝要なものを見出だし、残す必要があるのだ。見よ。溢れ出す生命の力を。帰るべきなのだ原初に。それを我等はアフリカと呼ぶ。アフリカに帰れ。生きる道を探すのだ」
うん。まあそんなこともありましょう。
現れたのは森神シルヴァヌス。
人間だった頃の名前はディエゴ・呉。
要するに馬鹿がいたのだった。
「思えばディエゴと呼んでいた頃から変わりませんね貴方は。ナチュラリスト気取りの独善家。稲荷山に敗北し、住む家も故郷もなく一人死んだと思えば。こんな場所に流され神の末席にいるとは。稲荷山は既に磐石、舞浜はもう貴方のものにはなりません。あの夢の国は。アルフォンスさん。アルフォンスさん?」
「ああん?俺はリンゴが食いたいパオーン」
半不定形流動固形物は象になっていた。
デザインが酷かった。
「神聖にして光輝く!我はシルヴァヌス!狐の女王よ!かつて求婚した美しき女の残骸よ!獣になるがよい!」
稲荷山グループ黎明期、昭和四十年代に既に環境テロを画策し、トキに完全敗北してどこかに消えた活動家気取りとの思いがけぬ再会は、アースツーを巡る大災難の先駆けとなっていたらしい。
ディエゴ・呉はどこに出しても恥ずかしいアースワンの恥部であるが、神になってしまった男であり、身に纏う霊気は絶大だった。
拮抗し得る人物は他にいない。
神に匹敵するひまわり、巨大な神器ドラゴニアを退けた、アースツー最強戦力。
「ユノさん?よろしいですか?あれはおつむはあれですが神です。貴女の力なら。ーーユノさん?」
トキの視線の先には、向こうの木の下に座り込み、足で顔をカキカキしていたちっこい豆柴ひまわりワンがいたという。
犬耳がピョコピョコ顔を出していた。
「ワンですが。何か?」
そのまま可愛い尻尾をブンブンしていたひまわり犬は、オス犬を求めてどこかに走っていった。
「あの娘は我の影響を最も強く受けている。お前もじきにそうなるのだ。人間だった思い出を汝に託そう。帰れ中国に。いやアフリカだ。そうであろうトキ。ナマステはどうした。美しく懐かしい歌に似たその言葉は?両手を合わせて我に微笑みかけるがよい」
何を言っているのでしょうこの馬鹿は。
トキに最大の試練が迫っていたという。
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