ハデス車を買う

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森神シルヴァヌスの異様な霊力の前に晒されていたトキは、結界で肉体変異を防いでいた。 とっくにトキは身に貴狐天王を勧請し、若い極上の天狐となっていた。 憑き物筋として産まれたトキの真の姿と言えた。 年相応に上げていた髪を下ろしていた。 艶やかな髪は、一部が金色の輝きを放っていた。 美しい狐女房のイメージ全てを体現しているように見えた。 「観念するがよい!最早人間は揃って獣と化し、人間が姿を消した世界で我は一人動物に囲まれて幸せに生きるのだ!我が計画!その名もリターン・トゥ・アフリカ!ウィー・ワンス・ア・シンプル・アンド・トゥルース!ストロング・バット・ジャンゴー・トゥー!我が手にある秘密の鍵を見よ!」 最早ただのゴダイゴ気取りでしかなかった。 「馬鹿のくせに厄介な。思えば昔から人間嫌いの動物好きで、しかし猫はいきり勃ち毛を逆立て犬は牙を剥く残念な男でしたね。貴方は」 「黙れトキ!お前は前からそうだった!勘解由小路の管財人なのをいいことに!無駄に会社を巨大化していった!日本から人間を全て追い出し!アフリカとなった列島で幸せに暮らしたかったのに!いいからその鬱陶しい結界を解け!メスの狐として我にクーンクーンと擦り寄るのだ!メッチャモフモフしてやる!」 ふん。鼻で笑ってトキは言った。 「貴方が森神になったのが残念でなりません。その馬鹿馬鹿しい力はどこから?何を隠してますか?」 「ならば教えてやろう!この宝玉の力である!先代シルヴァヌスが残したこの力の宝玉が、この原初のジャングルの奥深くの地面に埋まっていたのだ!大方後で掘り起こそうとして忘れたのだろう!!おっと、お前のことだ。どうせ何か企んでいるのだろう?無駄だ!宝玉は我が強大な魔力で護られている!お前如きでは手も足も出まい!」 シルヴァヌスは宝玉を掲げた。 確かに強力な力で覆われていた。 何者も触れることすら叶わぬ障壁に覆われていたのだった。 「企む?愚かな。(わたくし)には見えているだけです。貴方の無様な敗北が。貴方はまだ生成り。ようやく神の末席についただけの男。それは貴方の力ではありません。太古に自然と同一化した(いにしえ)の神の力に乗っかっているだけです。貴方は愚かです。貴方は動物を愛し、自然を愛する己を見せつけたいだけの男です。(わたくし)に言わせると、動物を殺すのは可哀想だと言ってベジタリアンになった愚かな白人と一緒です。古に、命に敬意を払わぬ独りよがりです。(わたくし)は、トキは負けません。貴方程度にどうにか出来る相手ではないのです。トキが仕え敬愛する主人はたったお一人です。そして勿論、その方には可愛い可愛い花のように気高い、貴方如きでは決して届かない娘がいます。敗北なさいディエゴ・呉。愚かな偽神よ」 トキが言い放ち、それはジャングルを轟かせる声となって響いていた。 「うっきゃあああああああああああ!莉里ちゃんなのよさああああああああああああああ!!!」 森神の前に、無数の動物達を伴って、出鱈目が降臨していた。
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