ハデス車を買う

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いたあああああああ!トキ!見つけたのよさああああああ! 「まあ莉里様。トキを探しておいでですか?」 小型哺乳類諸共胸に飛び込んだ無邪気な娘を抱いてトキは言った。 「そもそも何でこうなったのかさっぱりなのよさ!パパが探してるのよさ!家に帰るのよさ! ところでパパが藪蛇的にヤバいのよさ!ショボ神に踊らされてナマケモノに!ママがパパを食べちゃうのよさ!ついでにメル坊のパパも助けるのよさ!犬が犬らしくなったら笑うの笑えんのよさ!」 「この娘は何だ?」 やっぱりシルヴァヌスは普通に聞いていた。 弁天もそうだったが、どうにも神から毒気を抜いてしまうようだった。 「この宇宙で最も強大な御方(おんかた)の愛娘、神狐姫、勘解由小路莉里様でございます」 「勘解由小路?細の?」 「ああそれな?ひい爺ちゃんは可愛いコノハズクになってこの前莉里のカヤネズミ食べようとしたんで動物達にフルボッコにされたのよさ。こいつは誰なのよさ?トキの元カレなのよさ?」 「ええ莉里様そうではございません。トキが愛し仕えるお方はお一人のみです。これはただの残念な馬鹿でございます」 「おおおおおおおおおい!目の前ではっきり言うなああああああああああああああああ!最高の場所で!フォックスグランドホテル1号店のラウンジでプロポーズしてやったと言うのに!多数のカメラに囲まれて、跪いた我に対し、こちらを一瞥すらせずに帰っていっただろうが!エグゼクティブなフラレ男の末路と新聞の三面を飾ったと言うのに!」 「最初からトキの心は決まっておりますれば。莉里様、こやつの掲げた宝玉でございます。あれを破壊なさいませ。さすればメス犬達に迫られ、大蛇に迫られた殿方は元に戻りましょう。このトキを探しあそばされた坊っちゃまのご真意も解りましょう」 「ああん。結構硬いのよさ。莉里はそう言う暴力的なのは専門外なのよさ」 「その通りだ!憎っくき勘解由小路の血族よ!動物になってしまうがよい!」 宝玉が光を強めた。 「よく解らないけど見えてはいたのよさ。おじさん大丈夫なのよさ?」 「獣に実に大雑把に放り捨てられたが問題はない。さっき確認した時、奴は蛇になりかけた嫁とヘビーペッティングを。そう言えば、君の妹達はどうした?」 「こりゃあ要するにジョナサンの問題だったのよさ。トキを探しにパパがアースツーに来た時、既に危機は始まっていたのよさ。パパは望んでナマケモノになってるのよさ。ジョナサンは友達だったのよさ。パパは無駄なことはしないのよさ。それは三つ子ちゃんの面倒を三田橋さんに託したことで明白なのよさ」 「望んでだと?今まさに嫁に食われようとしているんだぞ?」 「パパ舐めちゃいかんのよさ。既にパパはこのしょうもない現象に対し、誰が誰で何の目的でどうしているのかも掴んでるのよさ。長い人生でナマケモノになるのもいいかと思ってるのよさ。遊びに命がけ。それがハデス。つまりはパパなのよさ」 「馬鹿なのかあいつは!ああそうだった神だからなあいつは!そして目の前の大馬鹿!何がしたいんだお前は!」 「見えております島原様。こやつはかつて人間よりも天然自然の方が大事だと環境テロを起こそうとした左派の活動家気取りです。神になれたのをいいことに好き勝手しようとしたところ、旧知の人間に出合い、いよいよ(おの)が目的を果たそうとしております。なまじ実家が政財人だったので偉そうな小僧でございました。細様に逮捕され、拘置所入りになる寸前に姿を消しました」 「環境左派か。プラスティックストローに親を殺された連中か。日本ではあまり目立たないな」 「プラスティックストローは悪魔が作りし絶対悪である!マイクロプラスティックは生態系を破壊するのだ!目覚めよ日本人!」 「こいつみたいな連中は、むしろ世界中で猛威を振るってるのよさ。アメリカの研究者がわざわざコスタリカまで行って見つけた亀の鼻に詰まってたのがプラストローってのは有名な話なのよさ。テキサス州からコスタリカまでマイカーで弁当持っていける距離なのよさ?わざわざそんなところまでいかないと見られない地球環境の危機って何なのよさ?莉里解んないのよさ。河川に流れ出たプラスティックは主に後進国から流れてくるのよさ。後進国は誰がそうしたのよさ?一般人が貧乏になればいい。俺以外はってのがあんた等なのよさ。自分が高いところにふんぞり返って地球がヤバイとかどの面下げて言ってんのよさ。イレギュラーなごくわずかな一例をあげつらって一般化する奴等は嫌いなのよさ。莉里の求めるモフモフキングダムは左派でも右派でもない真の理想郷なのよさ。お前が神気取るなよさ気持ち悪いのよさ。北欧の環境テロ娘の親戚は筏で大西洋横断してりゃあいいのよさ」 思いもよらぬ人物の長台詞だった。 「黙れ。黙れええええええええええええええええええええ!我が意に従わぬ奴等は意識の低い愚物である!よく見ればトキっぽい銀目銀毛のペロ少女と思い優しくしていればつけあがりおってえええええ!!地球の!我が裁きを受けよ勘解由小路の不愉快極まる娘よ!って、何をしている?」 「おじさんいるの考えてなかったのよさ。おじさんだったら楽勝なのよさ。でもいいのよさ。配置は済んでいるのよさ。莉里は観測手としても一流なのよさ。撃て」 恐ろしい轟音が、神気取りの環境活動家の掲げた宝玉に鳴り響いた。
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