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魔獣の背に跨って莉里が戻って来た。
「パパ!」
「おう莉里。馬鹿を退治したか。抱っこしてやるぞ。よしよしよくやった」
「うん!十三さん送ったパパ見事だったのよさ!一撃必殺スナイパーはこっちにもいるのよさ!トキは知っていたのよさ!パパがどうなっていくのかも!未来の日本はパパのものになるのよさ!莉里は稲荷山を継いでパパを支えるのよさ!」
「おお。さっさと莉里が進路を決めちまった。トキ、いいのか?」
「いかさまでございます。今日は本にめでたい日になりましょう。莉里様、お誕生日おめでとうございます。これはトキが求めたものにて。これなどはいかがでございましょう?」
トキが掌を開き、莉里は声をあげた。
「え?誕生日?莉里の?これ、プレゼントなのよさ?うわあ!可愛のよさ!モフモフなのよさ!」
覗き込んだジョナサンが言った。
「へえ。カヤネズミの一種だな。腹に綺麗な星がある。スターラットの一種だが図鑑に載ってない。メル、どうだ?」
「うん。僕も初めて見たよパパ。新種でいいんじゃない?」
「だったら名前つけていいのよさ?カデノコウジキラボシネズミなのよさ!これ連れて帰っていいのよさ?莉里大事にするのよさ!モフキンにお迎えするのよさ!」
ネズミがひょこっと顔を上げた。
「いいけど。私希少種なのらよ。それなりの待遇を保証しなきゃいやなのらよ」
「そうか。喋るのかこいつ。こう言うことが出来る奴なんだな。お前は」
「リリちゃんは凄いんだよパパ!リリちゃんの周りはみんな喋るんだよ!しかもおっぱいから凄くいい匂いがするし!フェリックス君も多分応援してくれるって!」
「ああ?何であいつがーーって」
パピィロックが降下して、十三さんと共に現れたフェリックスが父親に抱きついた。
うなじをクンクンし合うのは確認作業だった。
「フェリックス。お前何で」
「ズルいよ父さん。仲間に入れて欲しくてこっそり後を尾けたんだ。パピィロックの限界高度から拳大の石を狙撃したんだ。でも十三さんは本当に凄いよ!アースワンにこんな凄い狙撃手がいるなんて!僕達も負けていられないね!」
「ところで、この、バスケ部員みたいのは誰だ?」
「ん?おお。みんなも初めてじゃないんだろうが、息子のフェリックスだ。そう言えば、シャルルはどうした?」
「シャルルはともかくとして、彼幾つなのよさ?」
そこでフェリックスは、こちらに顔を向けて一礼した。
「赤ん坊の頃、皆さんに御世話になったフェリックス・エルネストです。10歳になりました。シャルルは僕の息子です」
ええええええええええええええええええええ?!ってなっていた。
フェリックスが長身なのは母親譲りだった。
どこに出しても恥ずかしくない、亜麻色長身の美少年になっていた。
母親のフランチェスカの身長が175センチ、父親もほぼ同寸なので解らなくはないが、それでもフェリックスは大きかった。
10歳にして既に身長は170センチを越えていた。
「そうだ父さん、シャルル用にオモチャのライフルはないかな?実銃っぽくない奴で、昔僕が使ってた豆鉄砲みたいな奴」
「それでリーゼロッテの尻を狙ってたんだな?前にそれでおっぱいを狙撃して取り上げられたんだったな。フラさんに」
フランチェスカが夫の肩を叩いた。
「場所とタイミングが悪かったのよ。リーゼロッテ崩れ落ちちゃったんだから」
「よく解らんがあんな表彰式の壇上に上がる場所で2百メートル先の標的を豆鉄砲で撃つからだ。本当にビックリしたが結果的によくやった。おっぱいの先っちょ直撃したんだったな。強化されたグリーンピースが」
「ちょっと待つのよさあああああああああ!10歳?!子供?!あんた孫いるのよさ?!」
「犬の生活サイクルは速いからな。犬は大体生後1年くらいから」
「1才で子供作れるかボケええええええええええええええええええええ!フェリックス帰れお前は!こいつ等に関わると光速で馬鹿になってくぞ!」
「まあとりあえずあれだな。有能な王子に会えてよかった。覚えてるか?俺を。ライルの敬愛する師匠が俺だ。今度正式に議員として表敬訪問しよう。父親はどうせ愛人と子作りしてるだろうから」
「勿論覚えてます。会えて光栄です。ただライル先生は敬愛どころか1日4回クソシショウ死ねと叫ぶのが日課になっています」
「そうかそうか!よし!目にもの見せてやろう!なあフェリックス君、犬すらも臭くて近寄らない、気持ち悪いカエルとかいないかな?」
「ちょうどアカデミーから北に2日ほど行った丘陵地帯にプーフロッグという黄土色のカエルが」
「うおおおおおおおおおおい!勝手に仲良くなって帰ろうとするな!この状況の責任は誰に問えばいいんだ?!何で俺達は犬になったんだ?!」
「お前が犬になるのは必然だ。あえて言わなかったがこの坊主も立派なジャーマン・ウルフ・スピッツだ。馬鹿が出たのは気にするな。とっくに終わっていたはずの馬鹿を終わらせたのはトキと莉里だ。懐かしのユリアスを思い出せ。お前が犬になりきる前でよかったじゃないか。メスワン達の方がむしろ問題だった。欲求不満が溜まってる。解消してやれよ。犬勇者」
「確かに。犬耳生やして父に尻尾を振る母を見て、何とも言えない気持ちになりました」
「フェリックス。ママんところ来なさい。いい子いい子してあげる。あと私達が犬になったこと言いふらしたら絶対許さないから」
「さもありなんですわ!子供には絶対言えませんもの!」
「今日のことは協定組んで秘密を厳守するわよ。みんないい?言ったら首刎ねるわよーダーリンいいわね?」
「首長としては異論はない。むしろ島民が変わってないかだけ心配。メル、先に飛んで確認してきて」
「ええええ?大丈夫だと思うよ?この匂いに病みつきになりそう。ハアハア、リリちゃんのお尻本当に柔らかい」
「何かさっきからこの有り様なんだけどよさ。生パンツ触られまくってるのよさ」
「メル。駄目だよ。お尻の撫で方がおかしい。僕は2歳の頃からリーゼロッテにいたずらしたけど、一度も他の人に見つからなかった。特にスカートに手を入れてお尻をモミモミする時は見えないようにしないと」
「勇者犬の子犬に新な称号をやらんとな。痴漢犬はどうだろう。そもそも先祖に有名な痴漢がいるから」
「うおおおおおおおおおおい!やめろお前等!フェリックス!メルに痴漢をレクチャーするな!そもそもお前も嫁の尻触ってんじゃねえかあああああああああああああ!いいからもう帰れよゴーマ!何が車だお前は!」
「おおそうだった。トキ、車だ。レロレロの。覚えてるか?このほどロールアウトした」
「左様でございますか。しかし調度はもう5つ6つ上のランクにされてはいかがでしょう?更に言えばあと1年あれば車に空中走行機能が」
どこまで行く気だこいつ等は。
「まあいいだろう。空が飛べればまた後で買おう。それでなトキ。俺が倒れた時、免許を預けてあったろう。今どこにある?」
「はい。免許証でございますか。こちらに。トキは常に坊っちゃまのお品は持っております」
首に提げていた馬鹿の免許を見せた。実に雑な、20代の馬鹿の顔写真があった。
「おおそれだそれだ!これを免許センターに持ってけばいいんだろう?!そうだろう島原。何を放心している」
「今までのことを思っていた。お前に付き合わされてまともなことがあったためしがない。今回もそうだ。望んで環境活動家気取りの馬鹿馬鹿しい策謀に乗っただろう。まあそれもいい。結果異世界の怪奇事件と呼んでいいのか解らんが、それは解決した。お前の出鱈目な家族の力でな」
おい。ジョナサンが言った。
「ゴーマお前、解ってたのか?今回のーーええと誰だっけ?そう言えば」
「本当に恥ずかしい奴だ。呉・ディエゴって昔の新聞に名前が出てた奴だ。わざわざ望まれもしないのに日本よアフリカに帰れっつって爆弾仕掛けてジジイに捕まった正真正銘のアカンタレだ。アースツーに飛ばされて死んで神になった。あれだ、前にベケットの馬鹿がおんなじような境遇の馬鹿を集めてやったろう。サリン事件起こして議事堂に侵入してぶち込まれてる丹羽長何たらの仲間の1人だった」
「そうだった。奴はエルネスト氏や、確かキング・アライダーがどうとか言っていたな。サイバー・ワールドでは有名な人物らしいな」
ゴーマとシマバラさんがそれぞれ言った。
よく9年くらい前のこと覚えてたよな。
まだメルが新生児の頃だぞ?
そして、ベケット、って。ああルキノ・システィーナだ。
連合の残党とウエスト・ランドが有機的に結合し、かつての記憶が甦った。
「ああそうかそうか!イルミナティと銀龍暴走事件の時の奴か!そんなのがいたことすら忘れてたよ!そう言えば前のニュクス事件の時な?!お前だけ何があっても平然としてたよな?!そんな!お前が!何であっさりナマケモノになったんだ?!」
「その方が面白いと思って。銃口をほっぺに押し付けるなよ冷たいじゃないか」
「それでな?勘解由小路。エルネスト氏の気持ちは痛いほど解る」
ありがとうシマバラさん。今度飲みに行かない?
「それでな?お前。最近よく聞く免許返納って知ってるか?返納した後身分証明でこんなものが交付されるんだが。まさに彼女が首に提げているものをだ」
今思い出した。この馬鹿人の過去や事実をうっとうしいレベルで覚えてるくせに、自分のことはこれっぽっちも覚えていないことを。
大学時代、おい島原!俺の携帯どこ隠した?!ただじゃすまんぞお前!
そう言った馬鹿の背後にサンドイッチと携帯が見えていた。
「ふうんそうか。何故だ?」
「僕がおりましょう。退院した時既に轟さんの運転で後部座席にいらっしゃいました。坊っちゃまほどのお方が車を手ずから運転する必要はないと判断いたしました」
「ふうん。そっか。じゃあしょうがない。帰って子作りしようか」
「そのお言葉を待っておりました」
馬鹿夫婦はそんなことを言った。
ジョナサンがイッパツヌイテモータのレバーを起こし、島原は、レーザーポインターを馬鹿の顔に向けた。
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