ハデス車を買う

3/20
前へ
/21ページ
次へ
まあそうは言ってもな。 平和な七児の父親はそう言って首を傾げた。 「よし。父ちゃんが抱いてやろう。おお可愛いな石榴。ああそうだトキだ。あいつは今どこにいると思う?」 家族を座に取り巻いて勘解由小路は言った。 娘の真帆が、勘解由小路の息子、流紫降(るしふる)に嫁いだ悲しい父親は言った。 続柄で言うと義兄弟ということになるのか。 まさか自分が勘解由小路と縁戚になるとは思っていなかった。 こいつの息子は蓋を開けたら父親に匹敵する変態だったが、まさか我が娘もそれを併呑し得る変態娘だったとは。 「勘解由小路。トキさんを探す気か?というより常に神出鬼没でお前の前に現れる人だったろう。大学時代にお前が女性を取っ替え引っ替えしていた時、部屋に行ったら彼女がいたのが初めての遭遇だったぞ」 順番待ちしていた女達を全員追い出して部屋の中央で待っていた。恐ろしい威圧感があった。あの老婆には。 あとこいつは相変わらずだったが。 「まあそうなんだ。真琴はぎゅっと俺の腕に爪を立ててるし。いつも当たり前にいたんでかえって盲点だった。いざこっちから探すとなるとこんなに見つからんとはな。牡丹の話じゃあ本社にいること自体滅多にないんだそうだ。だからこそ現れた時恐ろしいんだそうだ。こういう人身掌握もあるんだな。今後の参考にしよう」 「トキさんは休日なのだろう?彼女の趣味は何だ?」 「そういやあ全く知らん。あいつの趣味は俺。あいつの望みは俺の幸せだ。まあそう言う奴が自由になった時何をしてるのか想像も出来ん。ああさっき確認した。鵺春や静也を拾った施設にもいないらしい。稲荷山に新しい人材を求める頃だろうと思ったが、とりあえず打ち止めらしいな。よく考えてみれば稲荷山グループの跡取りは見つかったようだし」 勘解由小路の視線は莉里に向けられていたが、莉里本人は三つ子が可愛くて仕形がないといった様子だった。 「三つ子ちゃん可愛すぎてそれどころじゃないのよさ。トキはきっとアースツーにいるのよさ。パパの血脈を探してるのよさ。可愛がってた弟ちゃんに会いたがってるようなのよさ」  何の脈絡もなく異世界の名前が出たが、それをおかしいと思う者は誰もいなかった。  そう。それは彼女の体質に依存する。  未来予知者。この語尾に特徴がある高校一年生は、何気ない発言が確実な未来を見通していると言う。 「ああ。ああそうか。だがあいつはアースツーにいるようでいない。そうだな。莉里がいてよかった。てっきり親父にでも話を聞きに行ってると思ったが、流石はトキだ。もうそこまであいつに迫ってるんだな。ちょうどいい。アースツーに行こう」 「どうやっていく?そもそもあいつとは誰だ?お前の血脈とは?」 「精神的にチョロい引きこもりだ。お前も覚えてるだろう島原。俺が刑事になりたての頃の話だ。ちょうどいいホテルを管理人つきで見つけたって言っただろうが」 勘解由小路は軽い調子で二十年以上前のことを話題にあげたが、それを覚えていた島原の記憶力のよさもどっこいだった。 「警察官になりたての癖にいい宿泊場所を見つけた。おっぱいも呼び放題と言っていたな。本来独身者は独身寮に住む義務があったはずだぞ」 「ああ。私もかつて住んでいた記憶があります。同僚の子の中には交際相手と会うのに苦労すると漏らしていました。そうですか。降魔さんはそこでおっぱいを自由に選んでいたんですね」 「話が早くて助かるが腕に爪がざっくり刺さっちゃってるぞ。骨が折れます砕けますだウワーイさっさと行こう!俺んちの転移法陣で!」 勘解由小路一家はアースツーに向かったのだった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加