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赤い雨のなかで
忘れようのない、赤い情景。
雨の日、まるで眠っているようだった妹。
妹を見下ろしたまま、泣き崩れる両親の後ろで。
誓った――――絶対に、復讐する、と。
「あなたたちが、あなたたちのせいで……」
紗綾は、激情のままに内海に飛び掛かろうとした。何故なら、彼の自白はもはや何の意味もなさない――内海が、過去にこの事件で無罪を勝ち取ってしまったから。もう、たった今関与を認めた川嶋の事件において、彼が法的に拘束されることもなければ、裁きを受ける必要もない。
一事不再理。
ある事件において拘束された人物が無罪判決を下された場合、その人物はもう二度と、同じ事件についての咎を受けることはない。
もう、あんな凄惨な事件の片棒を担いでいた内海を裁くものは、法曹にはない。社会も、何もかも、内海に手出しできない。
妹が被ったことの復讐すら、法的には成されない。
それならば、いっそ自分の手で…………っ!!
内海は、怒気を孕んだ紗綾の視線をまっすぐに受け止める。その顔つきは、もう真相を打ち明けても裁かれることがないという安堵からか、落ち着いた静かなものだった。
静かな海のような瞳を向けながら、“怪物”と共にあった男は尋ねる。
「私を、殺したいかい?」
「あなたみたいな怪物、生きていていいと思っているの!?」
怒りと殺意のままに声を荒げる紗綾の顔には、取材として内海の家を訪れたときに装っていた理知的な光など見当たらなかった。
内海は、紗綾を哀れむような視線を一瞬向けたあと。
「怪物は、私たちだけではないさ」
そう、静かに返した。
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