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怪物の檻
「え、何を言って……るんですか……?」
紗綾は、頭を思いきり殴られたような衝撃に、目眩すら覚えた。何故なら、内海から打ち明けられたのは、あまりにも予想外すぎる真実。
“川嶋誠哉の共犯者”?
事件に関わりがあっただとか、それによって引き起こされた狂騒のなかで嫌な目に遭ったとかではなく、本当に、この男が、川嶋の共犯者?
言われてみれば、というまでもなく、納得するしかない。むしろ、あまりにも呆気なさ過ぎる真相だ。もし彼の言葉が本当なのだとしたら、『Kという名の怪物』があれほどのリアリティを持っていたのも、当たり前のことだったのだ。
まさにあの書き出しは真実、あの内容はそのまま、内海自身の懺悔だったことになる。
だが、いくら信じられるような内容であっても、そうそう認められることではなかった。殺人犯――少なくともその共犯者――が目の前にいるなど、そう受け入れられるものではない。
もしかしたら、不謹慎な冗談なのではないか? 一縷の期待を込めて、「じょ、冗談ですよね?」と尋ねる。絞り出した震える声に返ってきたのは、「こんな不謹慎な冗談があると思うかい?」という、真剣そのものといった声だった。
むしろ、冗談ならどれほどよかっただろう。
だって、それは。
今なお見る、あの日の夢。
雨のなか、無言で横たわる妹。
泣き叫ぶ両親。
広がる、赤。赤。赤。
赤――――
目の前で穏やかに微笑む紳士が、その元凶のひとりであったことを意味している。紗綾は、まるで鐘を撞かれているようにうるさい耳鳴りを必死に無視しながら、「それじゃあ……あそこに書いたことは」と尋ねる。
内海は頷きながら「すべてが、事実だ」と答える。
紗綾の脳裏に、『Kという名の怪物』の文面がまざまざと蘇る。
『Kは忌むべき行為の最中、少女の首を絞めることを好んだ。最初は抵抗を示していた少女も、何度か顔を殴られるうちにすっかり大人しくなった。』
『Kは時に、私にも少女を犯すよう強いた。あくまで慇懃な、しかし冷酷さの覗く態度で。逆らえなかった……それも嘘ではない。しかし、私が半ば、その命令を口実にしていたことは否定のしようがない。』
『ありとあらゆる凌辱に飽きたKは、少女を殺害した。羽虫を殺すように容易く。古くなった玩具を捨てるように、無感情だった。』
『少女の亡骸を分解するよう提案したのは私だった。Kの“芸術”への志を満足させ、かつ犯行の発覚を少しでも遅らせられると思ったからだ。彼の次の目論見など、知る由もなく。』
すべて、事実……?
なら、彼らのせいで……!
紗綾のなかに、赤い激情が走るのを感じた。
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