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怪物は死なない
「……世間の風が私を庇ったことで、証拠の不確実性が囁かれるようになった。確実な証拠は残っていなかった、川嶋くんはその辺り抜かりなくやっていたからね……恐らく、私の知らない事件も起こしていたのだろう。
私には、そう場面場面によって顔色を変え、言葉を変え、人が変わったようになる“善良なる人々”の方がよっぽどバケモノじみて思えるんだよ」
背筋の凍るような話を、悲しい瞳でする内海。もしかしたら、川嶋の犯行はまだ隠されている……? そんなもの、大きなスクープに違いない。すぐにでも録音して、編集部に持ち帰りたいようだった。
しかし、紗綾はそんなことをできるような精神状態ではなかった。
……奥さんがなんだっていうの?
あなたは、自分のしたことで痛い目を見たに過ぎない。
けど、妹は……!
私の妹は、何もしていなかったのに……っ!
「納得していないようだね、尾崎さん。確かに、私たちはあなたの妹さんにもいくら謝っても謝りきれない。尾崎七海さんが自殺に追い込まれた件は、本当に痛ましかった」
「…………っ、気付いていたの?」
「あぁ。そんな痛みを味わったあなたにこそ、この真実を話したかった」
「なんで今更……! 裁かれなくなったのなら、ずっと秘密にしておけばよかったのに……!」
「誰もが言うだろうね。しかし、共に十字架を背負っていた男が消えて、これは、私ひとりで背負うには、あまりに重かったんだ。
……ありがとう、すまなかった。私は、君に話して……心から救われた」
沈痛な――しかし、どこか清々しい面持ちで言葉を切る内海。
そして、まっすぐに紗綾を見つめる――穏やかな笑みを湛えながら。その澄んだ瞳に映るのは、憎悪に顔を歪めながら迫るひとりの……いや。
1匹の、新しい“怪物”だった。
* * * * * * *
その週に発刊されたSouthernCrossの一面は、清純派アイドルの援助交際スキャンダル記事に差し替えられることになった。
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