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やっとの怒り
ポケモン野郎と女性が睨み合いにワンテンポ遅れて、電車が品川駅への停車のためにさらに減速した。それに呼応するように電車が揺れた。女性と睨み合っているポケモン野郎の右肘はヒロシの脇腹に圧を掛けたままだった。そこに揺れとあわせて再度の食い込みがきた。
「うっ・・」
ヒロシの口から勝手に言葉が出た。
「あのさっ!、俺も迷惑なんだけどっ!」
ヒロシにしては自分でも驚くほどコントロールをしていない大声が出た。車内全員が今度は一斉にヒロシを視た。強気に怒った割には、内心はあちこちの視線を感じて恥ずかしさも感じているヒロシである。
でも効果はあったようだ。ポケモン野郎は今度は反対側から突然怒鳴られたのでギョっとしてヒロシの方に振り返った。今度は年上の男だと認識して? 「あっ、」と絶句し罰悪そうに神妙になった。丁度その時、電車が品川駅に止まり、ドアが開いた。ポケモン野郎はここぞとばかりに立ち上がり、すごすごと電車を降りて去って行った。
入れ替わりに数人の乗客が乗ってきて、その内の一人がポケモン野郎の後の空いた席に座った。経緯を知っている周りの乗客は女性とヒロシの様子をしばらく注視していたが場が収まったと通常の車内の雑然とした雰囲気に戻った。
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