何故か羞恥心

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何故か羞恥心

 平常に戻った電車は大崎駅に到着となった。電車がゆっくりとホームに停車し、ドアが開く。 すると先ほどの女性が席から立ちあがった。すると先ほどのひと悶着を思い出したように乗客の視線が一斉に彼女に集中した。  ヒロシも彼女をチラ見したところ・・、立ち上がった彼女は座っているヒロシの前にヒロシに向かって背筋を伸ばして立った。ヒロシがキョトンとしていると彼女が口を開いた。 「先程はありがとうございました。助かりました。お世話様でした。」 そして深くお辞儀をした。その後、空いたドアから大崎駅のホームへと去って行った。今度は一通りの悶着の当事者として一人残ったヒロシに車内の視線が集まった。電車が走り出しその後も暫く沢山の視線を感じるヒロシだった。  別に悪いことをしたわけではないが・・、五反田駅に電車が到着して逃げるように電車を降りたヒロシだった。改札に向かいながら先ほどの女性が自分に挨拶をしたシーンを思い出していた。 「(いやいや、言えなかったことを言って貰ったのは俺の方で・・。というか先に彼を注意した彼女に対して煮え切らなかった自分が恥ずかしい・・。 さらに”お世話様でした”と古風に話す女性に感心して・・、で、気がついたら車内の当事者が自分一人になっていて・・暫く沢山の視線を感じて・・、おいおい、みんな俺を見ないでくれ。ヒーローでもなんなでもない・・。なんか俺って小さい奴だなぁ。)」 行き場のない恥ずかしさが残っていた。秋の澄んだ外気をもう一度深く吸い込み、「ふぅ~ぅ」と吐き出し、 少々気を落ち着けて次の顧客に向かうヒロシだった。 (了)
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