馬車の中の二人

1/1
前へ
/14ページ
次へ

馬車の中の二人

 新年が明け、エッガー家の家督相続に決着がついた為、フィンリーは長い冬休みをわずかに残して、中央都市オークラルドに戻る事になった。  凍てついた街道を馬車で、フィンリーとルナがオークラルドの街に向かっている。氷の上をガタガタと行く振動は、クッションを敷いても激しく揺れる。汽車に乗るまでの長い辛抱になっていた。  ルナはフィンリーとは別の辛抱をしていた。 「ルナは大丈夫? 寒くない? 」  フィンリーは口先だけの心配をして、時々ルナの顔を覗き込む。 「いえ、少しも寒くないです」  ルナは顔を赤くしてはそう答えている。  空気は冷え冷えとしているが、狭い馬車の席を横に並んで座り、ルナが振動で転げないようにとフィンリーがずっと腰に腕を回して支えていた。片方の手もずっと握られて手が冷たくなる筈がない。  このやり取りをもう夜明け前から何度も繰り返している。ルナは朝から落ち着かない。 『フィンリー様は、結構しつこい……』  ルナが恋人とも婚約者ともお断りをしているのに、行き場のないルナを半ば強引にオークラルドに連れて行くという。ルナとしては、公爵子息付きのメイドとして。  馬車の外が一面の銀平野に差し掛かり、ついひと月前の事を二人は思い出している。その時は、結婚が破談になったルナが、この寂しい街道を独りで歩いていた。 「ついひと月前、ルナはここを歩いていたね。無謀だったね。夜は狼が出たかもしれないのに」  そうフィンリーが言うと、いつもと違う話題を振られてルナはホッとする。 「夜までには町に着くと思ったんです。思ったよりもトランクが重くて」 「会えて良かったよ」  フィンリーが整った顔に優しい笑顔を映す。不意打ちの様に目を合わせてしまい、ルナはしまったと顔を下に向ける。 『話を全部そっちに持っていかれる……』  ルナがため息をつくと、馬車が片側の車輪がガタッと上がり、フィンリーの支える腕に力がこもる。 「ルナは……顔も見たこともない男との結婚は決めたのに、なぜ僕はダメなんだ? 」  二人きりの長い旅路を機会とばかりに、フィンリーはルナに質問を浴びせた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加