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パーティーの招待
夜が明けてマシューが目を覚ました。カーテンの隙間から朝の陽射しが溢れている。反対側にはルナがベッドの横に椅子を置いて座っていた。
「ルナ? 私、生きてるの? 」
「うん。おはようマティー。リーザも無事よ」
マシューはベッドの上で半身を起こして、身体のあちこちを確かめた。窓から落ちた時には気を失っていた。強かに地面に落ちた記憶はない。身体のどこにもその痛みが残っていない。
「なんで、無事なの? 」
ルナは苦笑した。
「妖精たちが、まだパーティーに招かれてないって……」
「……はぁ? なにそれ? 妖精の契約って雑なの? 」
「私もそう思うわ。でも、妖精たちは契約が好きなのよ」
ルナは窓のカーテンを開けて、外の見晴らし手を広げて大きく息を吸った。
「リーザは? 」
マシューは聞いた。
「さっき起きたわ。昨日の事も、ホテルの事も……この何年かまるで覚えてないみたい。診療所に行くのも承諾したらしいわ」
ルナがそう答えて、マシューに窓の外を覗かせた。庭に、コートを着たリーザが雪遊びをしている。フィンリーとウォルカーが近くで見守っている。
深夜の剣幕が嘘のように、目が覚めたリーザは大人しく穏やかだった。憑き物が取れたかのように、空気や雪の冷たさを感じて楽しんでいた。
マティーは腕を組んで窓枠に寄りかかり、呆けたようにリーザを眺めた。
「あなたのせいで、あなたのおかげね。迷惑をかけたわ」
と、マティーはルナに言った。
「迷惑なんて、思ってないわ。お互い様よ」
「ん、ちょっと待って。やっぱり、フィンリーのせいにしておこうかしら? やーね、モテる男って、トラブルメーカーじゃない? 」
ルナは軽く首を傾げて少し考えた。
「そういえば、私、色々と巻き込まれて来たかも……」
二人がすっかり気が抜けたところに、スタッド夫人が訪れた。ウォルカーとリーザの母である彼女が、マティーの具合を心配して部屋に顔を出したのだった。
マティーとスタッド夫人が並んでベッドに腰を掛け、ルナは小さな腰掛け寄せて座った。夫人は改めて昨夜の事を詫びた。
「運が良かったとは言え、あなた達にはとても危険な目に合わせてしまったわ。とても申し訳なく思っているの」
夫人は肩をすくめて弱々しく謝罪した。瞼には泣き腫らした跡があった。気品のある夫人の憔悴した様は痛々しかった。
「どうか、お気になさらずに」と、ルナとマティーは夫人に伝えた。
幾らかの雑談を交わして、スタッド夫人は、マティーに大事な話をした。この屋敷に暮らしてもらいたい事、職場にもここから通って欲しいと。ウォルカーとの将来も見据えてと。
マティーは涙を浮かべながらその申し出を受け取った。
スタッド夫人が部屋から去ると、ルナはマティーに祝福の言葉をかけた。
「マティー、おめでとう! スタッド家に迎え入れてもらえるのね」
「ありがとう、ルナ。あなたにも話を聞いてもらえて良かったわ……」
凄く嬉しいはずなのに何かを含んだ様な物言いに、ルナは少し不思議な感じがして、目を瞬かせた。マティーはニヒルに笑った。
「リーザが診療所に行ってしまうから……体面上? 私が必要にでもなったのかしら? 」
「まぁ、そんな……」
味も素っ気もないマティーの物言いに、ルナは驚いてしまった。
「知らないでしょうけど、スタッド商会はね、診療所を建てたり病院経営に乗り出すらしいのよ。それで、私の看護士の仕事も慈善事業の宣伝に悪くないかもなの。……まぁ、知れてるけど」
「……」
ルナは言葉が出てこない。マティーは、ルナの鼻先を指差して話に巻き込んだ。
「強いては、未来のエッガー公爵夫人をご友人に持った嫁ってのもあるみたいなのよ? 」
「ええっ!? 」
「妖精たちの世界に片足突っ込んでるあなたには、生々しい俗世間な話だと思うけど……宜しくね。披露宴には妖精たちの席を設けるわよ」
ルナはマティーの逞しさに感心して、思わず吹き出して笑った。マティーもつられて笑顔をほころばせた。
妖精たちは『パーティーだぁ~~』と大騒ぎして、ルナの耳元は大騒音になったが、相変わらずマティーには聞こえていない。
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