オークラルドへ

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「それは……」  ルナが口籠る。 「僕が嫌いとか」 「いえ、そんな事は! 」  ルナが慌てて応えると、フィンリーは困った顔を装いながら悪戯っぽい笑みを見せた。自信家のフィンリーに、ルナには恨めしく思う。  あぁ、もう……オークラルドに着いたら、急いで新しい職を探そう。エッガー家にはこれ以上の迷惑を掛けたくない。それ以上に、私には誰かと添い遂げるという夢を見るのは無理。フィンリー様だから、なおさら!  ルナは頑なになっていた。 「それとも妖精のこと? 」  それもある。 「僕はなかなか面白かったけど」  フィンリーはクスッとするが、冗談では済まされない。 「フィンリー様!! 」 「ごめん、気にしてたね。気をつけるよ。それと、ルナも、フィンっていつになったら呼んでくれるの? 」  フィンリーがルナの手を握り直す。 「それで、妖精たちはどうなの?」 「妖精たちは……」  エッガー公爵家の家督を継ぐはずだったクラミーの悪事が、ルナを守護する妖精たちの働きで明るみになってしまった。確信を求めていた公爵がようやくクラミーに勘当を突きつけたのは、年が明ける前だった。  妖精たちがした事はそれだけでは無かった。  フィンリーと妖精たちが交わした契約が、ルナの意思確認もなく次々と履行された。 ーーーー「ルナに従う妖精たちに、我がエッガー家でルナを敵視し苛む者に嫌がらせの限りを尽くす事を許そう」ーーーー  孤児としてエッガー家に引き取られメイドをしていたルナを、エッガー家の中には酷い仕打ちをする者もいた。  古い血を持つというだけで身分違いの縁談が持ち込まれたルナに、嫉妬や憎悪が向けられた。婚姻は無効となったが、今度はフィンリーの客人として出戻って来た為、ルナへの嫌がらせがフィンリーの目を盗むように行われた。  結果、妖精たちが彼らに制裁を行なったのだった。 「あんなに使用人を次々と辞めさせることになるとはね。今は人手不足だけど、エッガー家も暮らしやすくなったと思うよ。メイド達の部屋もキレイにリフォームされることになったし。ルナに感謝した者もいるんじゃないかな? 」  と、フィンリーは言うが、死に目に合いかけた者もいたのでシャレにならない。  妖精の加護を受けるルナの古い血を不吉に思う者が多いハズだと、ルナは感じていた。 「妖精たちは、今、とても静かにしています……人にむけて力を使っていません」  ガタゴトと軋む馬車の音にかき消されそうな声でルナは答えた。  ルナはあれ以来、自分の異能を使っていない……そうしてしばらくすれば妖精たちの声が聞こえなくなる。妖精たちもルナが呼びかけなければ、その力を人に向けられることが出来ない。 「……そうなんだ。 僕がルナにちょっかい出しても妖精たちに罰を喰らわないから、ルナは嫌がってなくて、てっきり妖精たちにも免除されてると思ってたのにな」  フィンリーが、そう言いながらルナの額に顔を寄せる。 「……えっ!? 」 「……妖精たちの『許して欲しい』って、なんだろうな……って、気になっているよ」  フィンリーの顔がゆっくりと降りてルナの唇にキスをした。  やめてとも言えず、ルナはフィンリーの顔を手で押し退けた。馬車の振動よりも胸の鼓動の方が激しくなる。 『心臓がもたない! 』  早くオークラルド行きの汽車に乗り換えたいと切に思うルナだった。
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