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唐突な訪問者
ルナがマティーとホテルに戻ったのは、外食を済ませてからの夕刻だった。ホテルの玄関からフロントに向かうと、ルナは今朝の出来事を思い出させる状況になっていた。
ホテルの従業員、ロビーのチェアーにくつろぐ者、チェックインをする客らの様子が、ルナにだけは違って見えた。今朝見たときよりもその人数が多い……。
彼らはルナに死ぬ前を予感させていた……
その情景にルナは血の気が引いて足元から崩れた。
「どうしたの、ルナ!」
突然の事にマティーが驚き、腰を付いたルナの手を握り脈を測る。ホテルのボーイが二人に駆け寄ると、立ち上がろうとするルナを支えた。
「……無理をさせてたのかしら? 気が付かなくてごめんなさい」
「違うのマティー。大丈夫。部屋に戻れば治るわ」
動揺を押し殺してルナは立ち上がり、部屋へと登る階段を踏みしめた。マティーは、不安そうにルナの顔色を見守った。マティーに部屋まで付き添われ、ソファーに座りしばらくするとルナは落ち着きを取り戻した。
部屋にはデパートで購入した品物の一部と花束が届けられていた。フィンリーからだった。
「フィンリーもキザね。観念したら? 」と、マティーが笑って、その花束をルナに手渡した。
ホテルに滞在する彼らの澱んだ命の光の事でルナの頭はいっぱいになっていた。
「マティー、私ね……」
と、ルナが意を決してマティーに話しかけようとすると、ドアをノックする音がした。
ーーーコン、コン
マティーが静かにドアに近づくと、ドアホールを覗きルナを手招きした。
マティーに目配せされて、ルナもドアホールを覗くとウォルターの妹リーザが立っていた。
「どちら様ですか」と、ルナがドアの向こうに問いかけると、「フィンリー様は? 」と聞き返された。
「今日は遅くなると聞いているわ」
ドア越しに返事をした。
「いつ? 」
「まだしばらくは……」
「そう」
ぶっきらぼうに返事をしたリーザの顔をルナはドアホールを覗いて確かめると、リーザは俯きながら薄く唇を開いて両の口角を吊り上げて微笑んでいた。
ゾッとした。
ルナが後ずさる様にドアから離れると、ドアの向こうで駆けては消えていく足音がした。
「ごめんなさい。気分を害したかしら……」
と、マティーが神妙な顔をして謝ると、ルナに微笑みかけた。
「今日は良い買い物が出来て満足したわ。エッガー家の小切手を使うのはなかなか気持ち良いわね。また明日も行くわよ? 」
「えっ? 明日も? 」
ソファーに座りなおそうとしたルナが飛び上がる様な反応すると、マティーがルナの目を食い入る様に見つめた。
「ルナ、夜になると目の色が濃くなるの? そんな色だったかしら? 」
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