『バ』ケモノ

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『バ』ケモノ

 これは、俺が一年前に遭遇したバケモノの話だ。  昔、俺は事故物件マニアを自称していて、あの時も誰もが半年で引っ越してしまうと噂されているマンションの一室を借りた。六階の左端――唯一空いていた部屋で、そこが噂されていた件の部屋だった。  不動産会社の人と下見に来た時は不審な点は見当たらなかった。トイレと風呂は別、家具家電付きで家賃はなんと一万円。1LDKと充分すぎる広さなのにあまりにも安すぎること以外、普通の部屋というのが第一印象だ。ちなみに他の部屋も同じ値段で、数十年誰も引っ越していない。  俺は数々の事故物件に住んでは友人との話のネタにしてきた。幽霊と遭遇したことはないが、事故物件に住むだけで話は盛り上がる。今回も次の物件に引っ越すまで何事もなく生活できるだろうと思っていた。思えば、事故物件になった理由を不動産会社が知らない時点で怪しむべきだった。ただの業者の怠慢で片付けてしまった当時の自分に言ってやりたい。あの部屋だけ――いや、あのマンションだけは止めとけと。
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