バケモノ系 ショートショート『アート』

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 アズマは、普段は某美大の二年生だが、曇りの夜などはドロボウになって、となり街の留守宅に忍び込み、金品を盗んでいた。  身長が155センチで体重も45キロしかなく、非常に身軽な彼としては、うってつけの ‵趣味〞だった。  今夜は新月ということで、ドロボウするには、もってこいの日だった。  アズマは夜の十時頃、いつもの手口で、ある家に忍び込んだ。  家人は旅行中だということは、ちゃんと調べて知ってた。  黒いタイツと黒い長袖シャツを着たアズマは、小型ライトで照らしながら、二階から一階へと物色していった。  しかし、家人がそうとう用心深いのか、なかなか金品は見付からなかった。  結局、手にした現金は千数百円だった。 「もっと金を持ってそうな家を狙わないとダメだな……」  そしてアズマが思い付いたのは、 「そうだアートの仕事をしているヤツの家を狙おう」  となり街に、ジミーKという有名な画家の自宅が在ったので、アズマは、そこに忍び込むことにした。  ジミーKの活動パターンを調べ、忍び込む日が決まった。  幸運にもその日は、雨が降りそうな絶好の決行日だった。  アズマは、いつもの姿になると、二階の窓のカギを特殊な方法で開け、確認しながら忍び込んだ。   家人はいないためシーンとしている。  小型ライトを手に、二階を物色したが、金品は無かった。 「仕方ない、一階へ行こう……」  一階は画家のアトリエらしく『妖怪』『怪物』『幽霊』『災害』『オカルト』といった大小の作品があった。  が、肝心の金品は、なかなか見付からなかった。  その時、玄関の音がした。 「ヤバイ。帰ってきやがった」  アズマは、あわてて大きな作品の後ろに隠れた。 「えっ? 何だ? ウワー……」 「しまった……忘れ物をした……」  とジミーKがアトリエに入って照明をつけた瞬間、彼は呆然とした。 『バケモノ』  という作品が、真っ赤だったからだ。  ジミーKが、その作品の裏側を見ると、割れた裏板に血痕(けっこん)があり、(ゆか)には小型ライトが転《ころ』がっていた。  それを見ながらジミーKは、つぶやいた。 「まるで、ここに描いたバケモノが誰かを食べたようだな……」  ――終――
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