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目を覚ますと、彼は真っ白な部屋にいた。
体はやはり真っ白な合成革の椅子に括りつけられている。
体を動かそうとしても、身じろぎ一つできない。
真っ白な光を放つライトが顔に向けられていた。
自分の置かれている状況は瞬時に理解できた。
夢を監視されていたのだ。夢は記憶の断片。つまり、夢に出たという事は何かしら記憶に残る形で小説という物に触れあった証拠とされる。それは今の時代では罪なのだ。
小説だけではない。音楽、絵画、彫刻、芸術性の高いありとあらゆる活動は今の時代犯罪であった。そういう物が人々の心をかき乱し、堕落させ、間違った方向へ導くとされているからだ。
「さあ、何が不味いのか言ってみろ!!」
彼を固定している椅子のヘッドレストに取り付けられたスピーカーから、怒鳴り声が響いた。
「貴様が小説家になり、締め切りに苦しむ夢を見ていたのは分かっているのだ!! その情報をどこで手に入れたのだ!! どこで芸術と触れ合ったのか言うのだ!!」
陽一は何も答えない。
「いいか、答えるなら今のうちだぞ? 我々は貴様の記憶を徹底的に調べる事も出来るのだ。だが、それをするとお前は死ぬ。死にたくなければ、答えるのだ。貴様はどこで小説家の知識を手に入れた!!」
声はさらに大きさを増し、陽一の鼓膜をびりびりと震わせた。
「どうせ貴様は記憶洗浄にかけられ、全ての記憶を失うのだぞ。罪悪感など抱く必要は無いのだ。寧ろ、ここで応えれば、一からこの社会のあるべき姿、貴様らのあるべき姿について教育を施し、理想民に登録して社会に戻してやろうではないか」
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