監視

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「お断りだ。今の世の中は間違っている。何が理想の社会だ。お前たちに都合が良いように、民を操っているだけではないか!! だが、芸術は滅びないぞ!! お前達はやがて、それを自覚する日が来る!!」 「芸術と触れ合っただけではなく、邪悪なる自由思想にまで目覚めているとはな。益々もって許しがたい。自由などくそくらえだ。そんなものがあるせいで、かつて世界は大きな争いを何度も繰り返し、自らを滅ぼしかけたのだ。自由など不要。あるべきは完璧な秩序とその管理。それだけだ!!」 「彼を初めて見かけたのは忘れもしない、高校一年の春だった。桜の花びら舞う通学路。交差点のポストにもたれて彼は誰かを待っていた。私はその前を通り過ぎようとした。彼と私は舞い散る花びらに導かれるように視線を動かした。ほんの一瞬、交錯した視線。その瞬間、私の体にはまるで電気でも走ったような衝撃が……」  陽一が滔々と物語を語り始めるや否や、スピーカーから流れる声が大慌てを始めた。 「こいつ、小説を創作し始めただと!? 想像力を働かせているというのか。いかん。処分、処分だ。こいつをすぐさま処分しろ!!」  部屋の壁のあちこちが開き、シューっという音と共にガスが流れ込んだ。 「私は……教室に入ってみて……驚い……た。か……れだ……。わた……し……は……」  口から血泡を吹きながら、それでも物語を綴っていた陽一の頭が、かくん、と落ちるように下がった。  それっきり、彼は一言も発しなくなった。
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