3話 数学の小山内先生①

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3話 数学の小山内先生①

   「問2の答えわかる奴いるか~」このクラスの生徒はとても真面目だ。成績のいい生徒が多く、発言する生徒が沢山いると先生達の間では噂されている。ほらまた手が挙がった。「答えは3だ」「答えは2√5です。」「池田、正解」「えーそれと宇須尾、君は当ててないぞ、答えなくて大丈夫だ。」 「うっ、嘘だーー」このやり取りも何回目だろう。そもそもだ、今当てた池田は私の目の前の席、つまり最前列だ。それに対して宇須尾の席は、窓側最後列にある。普通なら位置関係的にそんな勘違いはしないだろう。そう、普通なら。しかし教員歴35年のベテラン(就職したての頃フサフサと茂っていた髪の毛も今や、つむじ周りの毛を失い、一部の生徒からはカッパとザビエルを組み合わせた生物、『カパエル』と呼ばれている)この私にはわかる。宇須尾は多分『奇行にはしる系陰キャ』だ。  先生、ご名答。     宇須尾はその頃恥ずかしさに悶えていた。今日も解答を間違えてしまった。そんな屈辱に恥ずかしがっているのだ。普通あの状況なら、他の人の解答権を勘違いで強奪したことに対して恥ずかしがる筈なのだが宇須尾はその件については意に介していないようだ。 正直先程の問題を宇須尾は1ミリも理解していなかった。それでも強引に発言したのには緻密な計画があったからだ。題して『奇跡的に答えがあってて、「宇須尾君、頭いいんだね」ってクラスの人に言ってもらうぞ作戦』だ。その知性の欠片もない計画名はさておき、宇須尾は既にこの作戦を実行していて、今日は通算0勝100敗の100回記念日となった。切りのいい数字ではあるのだが、当然宇須尾は喜べなかった。「はぁ、友達がほしい」宇須尾はそう小さくつぶやいた。  カパエルこと小山内先生は、現在夕陽が差し込む教室で宇須尾と2人きり向き合っている。何故かというと、それは遡ること5分前、小山内先生が数学研究室から、職員室へと向かう途中でそれは起こった。大半の生徒は部活または下校で校舎にいない筈なのに1年2組の教室の電気がついているのが見えた。「消し忘れだろう、」と節電に何かとうるさい学校の為に小山内先生は電気を消すために1年2組に向かった。教室の手前まできたところで中から音がしていることに気がつき、ドアを開けながら「早く帰れ~」と中を覗いた。するとそこにあったのは『ミッキーマウス』を熱唱する宇須尾の姿だった。
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