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笹山麗
どう見ても、大丈夫では無い気がする。
で、でも、完全にバレたわけじゃないし? いつも通りにしておけば? 私ぐらいのレベルになると(なんのレベルやねん)? 普通に乗りきれちゃうってやつね?
スー、ハー、スー、ハー。
まずは、深呼吸。
そして、挨拶!
「こ、こ、こ、こんにちわ。あ、あ、あ、会ったことは無いと思いますでござる・・・」
何を言っとんじゃぁぁぁぁ!
私は、何をいっとんじゃぁぁぁぁ!
「麗? なんでそんなに口ごもって・・・?」
そこで追い討ちかけるなぁ!
「あー、さっき、緊張してるって言ってたもんね? そのせい?」
そして、ナイス!
「そうなの?」
ドキッ。
フー、突然横から喋りかけないで・・・。
私は基本的に、嘘をつくのは下手なので、そういうびっくりするようなことをしないで欲し・・・
「ねえ、そうなの?」
「ひゃい、そうですでございます!」
だから、何をいっとんじゃぁぁぁぁ!
「麗~、何言ってんの?」
そんな、「変な人・・・」みたいな目で見ないでよぉ。うううっ。
帰りたいよ・・・。穴があったら入りたいよ・・・。
そして、なんかお腹痛い・・・。
「ねえ、君。君の名前は『麗』なんだよね?」
「え? あ、はい 。そうですけど・・・」
「中学校にもさ、『麗』って子、いたんだよねー。あの人って、名字なんだったかなぁ?」
はい、私のことでありますね・・・。
で、でも、今は名字を変えているから! バレない、よね?
本当は名前も変えたかったけど、親からつけてもらった、大切なものだしね。
「えっと、確か、笹山? だったっけ」
はい、私でございますぅぅぅ!
「そうなんですか・・・。わ、私の、名字は、」
「麗の名字は飛鳥だよっ!」
「あすかぁ?」
明里、教えてくれてありがとう。
・・・なんでこんなに驚かれたんだろう。
っていうか、なんで飛鳥なのかって?
うーんとね、先生に言われたからですね、はい。
詳しいことは、また今度・・・。
「ふうん、全然違う。まぁいいや、少しだけさ、笹山の話をしていい?」
えっ。 えっと、それは・・・。
「笹山はね、あるあだ名がついていたんだ」
「っ!」
ドクンッ。
やめて・・・。
「そのあだ名ががね、」
「や、やめて・・・」
・・・あっ。
「あげて!」
思わず言ってしまった・・・。
『やめて・・・あげて!』って、すごい変だね・・・。 あぁ、バレたかな?
「そうだよ、勝手に人に話すなんて、かわいそうだよ、その笹山さんって人が」
あぁ、明里・・・。
『笹山さんって人』
まぁ、当たり前だよね、知らないもんね、私のこと。
当たり前のはずなのに、なんでこんなに苦しいのだろう。悲しいのだろう・・・。
ダメだなぁ、私。本当に、ダメな子だ。
・・・昔から。
やっぱり、過去を忘れるなんてできないよ。
忘れることができたとしても、覚えている人がいたら、また思い出してしまうかもしれない。
それが、怖い。
それなら、もう、記憶に残しておいた方がいいのかな、なんて考えてしまう。
「麗? 大丈夫?」
明里の声に、ハッとする。
「ごめん、大丈夫だよ!」
「そう? ならいいんだけど・・・」
明里を、心配させてしまった。
「悩みごとでもあるの? いつでも聞くよ?」
・・・明里は優しいね。
嘘をついている私は、悪い子だね。
「麗?」
ここにいたら、全てを言ってしまいそう。
「ごめん、明里。私、帰るね」
私はそう言って、走り出した。
・・・笑顔で言えてたのだろうか。無理しているのがわかっちゃったかな。
「明里、ごめん。隠し事なんてして。明里はいつも、色々なことを相談してくれているのにね」
私は、ひとりでに呟く。
「ごめんね、明里・・・」
一粒の滴が地面を濡らした。
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