4人が本棚に入れています
本棚に追加
過去と今
「化け物!」
聞き慣れた言葉。
最初はやっぱり苦しかった、悲しかった。
でも、慣れればこんなの屁でもない。
逆に、バカだなぁ、と哀れな目で見返しているくらいだし。
え、本当は苦しいんでしょ、って?
ハッ、そんなわけ無いじゃん。
そんなこと言えば、ボッコボコにされて、病院行きだよ?
私は、怒ると怖いよ?
だから、怒らせないでね。
「あ、化け物だ! 怖いよ~、ママー!」
こどもは好き。
だから、これは結構ツラいかもね。
でも、自分が歩んできた道だから。
今さら否定しないよ。
え、だから苦しくないって。
我慢なんてしてない。
ストレスは、溜まったら暴力で解決してるから。
大丈夫、毎回相手から襲い掛かってくるから。
時々、本当に時々だよ?
謹慎処分にされるくらいだ。
だから、大丈夫。
だい、じょう、ぶ・・・。
ーーーーー
「はぁ、またあの夢か。昔のことなんて、忘れた忘れた。私に過去なんて無い」
そう、自分に言い聞かせる。
それでも毎日夢に出てくるのは、きっと忘れてはいけないからだろう。
そんなことを、考えてしまう。
忘れたいのに。
あんな過去、どうでもいい。
私は今、皆に優しく、暴力禁止、過去は振り返らない、というルールを作っている。
自分専用。
守れているのは、暴力禁止ぐらい。
皆に優しくなんて、どうやってやるの?
絶対に無理だという人も、一人ぐらいはいるでしょ。
それが普通でしょ?
でも、頑張らないと。
そしたら、昔のことは忘れれるかもしれないじゃない・・・。
「はぁ、学校行く準備しよ」
口に出しても、乗り気がしない。
めんどくさい、だるい、家でゴロゴロしてたい・・・。
でもダメだぁ。
行かなきゃ、勉強についていけなくなりそうだし。
学年一位は私のもの。
そう約束したもん。
誰にも、渡さない・・・。
ーーーーー
「おはよー、麗さん!」
「あ、おはよう!」
誰でしたっけ? なんて聞くことはできず、私は挨拶を返す。
誰か分からないことなんて、少なくない。
なんせ私は学校中に名が広がってしまっているからな・・・。
「麗~、聞いてよ~」
「おはよう、どうしたの?」
名前は言ってないけれど、誰かは分かってるから! 知ってる人だけ名前を呼んでいたら怪しまれるから!
この子の名前は明里。
名前にもある通り、明るい子。
でも、毎日毎日相談事をつくってくる。
・・・恋愛の。
私、恋愛なんて全然わからないのに。
何を言えばいいのやら。
「あのねー、彼氏とデートしてたらね、元彼がやって来て・・・」
はぁ、今日は何分かかるんだろうか。
出来れば十分以内で・・・
「でさぁ、どう思う?」
「え?」
私はビックリ。
「え?」
明里も驚きぎみ。
「ごめん、途中から聞いてなかった。ごめんね・・・」
だって、こんなに早く終わるなんて思わないじゃん!
いつも、三十分ぐらい、かけて話してるじゃん!
「で、どう思う?」
・・・。
え、だから早くない?
私、また聞いてなかったんだけど!
こ、ここは、適当に・・・。
「麗、もしかしてまた聞いてなかった?」
あー、ヤバイ。
明里って、察しがよさ過ぎるのよね・・・。
「ごめんなさい、ちょっと考え事してて・・・。次こそはしっかり聞きます!」
あー、怒られるな。
怒られるだろうな。
「プッ、ちょっと、そんなに身構えないでよぉ、いつも聞いてもらってるんだし、私はそこんなことで怒りません!」
明里はプンプンッ! って感じで怒っている。
でもそれは、聞いてなかったからじゃない。
「あ、明里ぃ! うん、明里だもんね! さぁ、話しなさい! 私がその悩みを解決して差し上げましょう」
明里の優しさにホッとして、私は威張って言う。
「アハハ、なら、もう一度話しま~す」
本当、明里のこういうところ好きだなぁ。
「えっとねー、彼氏とラブラブにデートをしていたらね、」
ラブラブに、が付け足されてる・・・。
「クソ野郎の元彼がやって来て!」
元彼がクソ野郎のなってしまった。
さて、この次はまだ聞いてない。
「いきなりその元彼が、もう一度付き合ってくれって言ってきて・・・」
うわぁ。それは、ダメだなぁ。
「断ったの」
賢明な判断!
「でもさ、そいつさ、絶対に振り向かせてみせるから、とか言って、去っていくんだよ!」
「それは、ひどいやつだね・・・」
「だよねぇ、麗が呆れてるくらいだもんね」
うーん、それは関係あるのか知らないけどね・・・。
「どうすればいいと思う?」
そうだなぁ・・・。
どうしよう、何も思い付かねー!!
「あの、明里」
困った顔をして、私は明里に言う。
「なぁに?」
そんなかわいい顔で、キョトンとしないで!
「そのね、これはね、いつもより結構大きいコトだと思うんだ。だから、少し考えてみていい?」
「そんな、考えてくれるの? ありがとう! さっすが麗~!」
ガバーっと抱きついてくる明里。
「任せて!」
と言ったものの、どうしよっか・・・。
最初のコメントを投稿しよう!