忘れ物再び

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忘れ物再び

 タクシーが駅に着いた。 「お客さん、駅前についたよ。さっきのカップルはすぐに追い付いてくるだろうから少し離れて止めるね。」 駅改札から離れたところにタクシーは止まった。 「ありがとう。午後の仕事に間に合いそうだ。助かったよ。」 ヒロシは清算を済ませてタクシーを降りた。タクシーが走り去る。    50Mほど離れた駅の改札の方をみると、丁度、先ほどのアキと男のカップルが到着して改札口に入っていくのが見えた。電車が来たのだろう、二人は急ごうと顔を見合わせて、ヒロシとは反対方向に行く電車のホームの階段に消えて行った。ヒロシは少しゆっくりと歩き、二人はもう行ったであろう頃合いで駅の改札口に入った。  横浜方面のホームに降りて、会社に電話をかけておこうとカバンを開けた。ところが・・。 「あれ?」 カバンの中をさらに探したが、先ほど家にまで取りに帰ったスマホがないのだ。おかしい・・。 「あっ!」  良く考えてみると、家を出た時から手に握りしめていたスマホだが、それをカバンにしまった記憶はない。だが、タクシーで駅に到着するまで手に持っていた記憶は残っている。つまり、タクシー清算で財布を取り出す際にスマホを無意識にシートの上においてそのままにしてしまったらしい・・。またやってしまった。  ヒロシはがっくりしたが、直ぐに気を取り直した。少し思案して財布から先ほどのタクシーの領収書を取り出した。そこに書いてある電話番号を確認して、今度はカバンからもうひとつの私用のスマホを取り出した。個人用にスマホを持っているのだが、いつもはネット利用モードにしてあり電話は一度も使っていない。今日が初めてのこの私用スマホで電話を使うことになった。  私用スマホを電話利用できるモードにセットして、領主書に書いてある番号に掛けた。その番号は運転手に直接ではなく、個人タクシーの組合みたいなところにかかった。事情を話したところ、すぐに運転手に連絡をとってみるとのことだった。一度電話を切って待つこと10分、意外と早く折り返しの電話がかかってきた。運転手は近くで営業中なので15分ほどで駅に戻ってこれるとのこと。忘れたスマホもあったとのこと。ヒロシはホッとした。
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